温暖化とエネルギー転換のトンデモ政策
2016年06月07日
化石燃料を増産し、環境規制をやめる。そしてパリ協定をキャンセルする。
これがトランプ氏が5月26日ノースダコタ州で発表したエネルギー政策の核心だ。彼が大統領になれば問題は深刻だ。米国の主要論調をもとに整理してみる。
この演説で最も強調された点は米国のエネルギーの完全な自給自足(Energy independence)であった。 英語ではこう言った。
“Under my presidency, we’ll accomplish a complete American energy independence. Complete.”
「完全な」と二度も言ってダメ押しした。そのため、米国は国内で化石燃料を大増産し、中東などへの依存を断ち切る。石炭産業を再興する。石炭は安価になり、必ずカムバックすると述べた。キーストンXL原油パイプライン建設を支持し、洋上や北極海域、国内の公有地での石油等の掘削を推進する。オバマ政権の中心的エネルギー転換政策であるクリーン・パワー計画(CPP)は廃止する。およそこういう議論だ。
もう一つの大きなポイントは、連邦政府の規制に対する強い敵意だ。「政府は勝者・敗者を決めるな」と強調し、連邦環境保護庁(EPA)によるエネルギーや環境への規制に強く反対する姿勢を打ち出した。再生可能エネルギーの存在は認めるが、補助金を出しているので高価だと論じている。また、環境活動家が極端な法令を作ることを許さない。すべてのエネルギー政策は、アメリカの労働者にとって利益かどうかを基準に決めていくと述べた。
国際的に最も深刻な点は、パリ協定を就任100日以内に「キャンセルする」としている点だ。同氏は従来、温暖化は「人をだますための作り話」(hoax)だと言ってきた。「中国の作り話だ」と言ったこともある。今回はこの用語は使わなかったが、気候変動問題は国際官僚に支配されているので、アメリカのエネルギー政策を彼らに支配されることには絶対に反対すると述べた。また、パリ協定に基づく気候変動基金への拠出はしないとも述べた。
米国国内では反発が広がっている。有力な環境保護団体であるシエラ・クラブは演説全体を「完全なたわ言」だと切り捨てた。これが実行されたら取り返しのつかない大惨事になると述べた。
また、エネルギー問題の専門家たちはまず第一に、米国のエネルギー自給自足など抑々あり得ないと論じている。シェールガスや石油生産が全盛であった時点でも、米国は需要の半分を輸入していた。
それに石炭を再興するなどはあり得ない。石炭は、ガスや再エネの価格低落によって競争力を失った。石炭への環境規制を廃止しても。カムバックするはずがない。
世界の原油価格は、低下している。こんな時に増産すれば、原油価格はさらに低下し、エネルギー産業の雇用はさらに減るだろう。本来なら需要管理を進めるべき時に、生産拡大をやろうとするのは、モノごとを知らない人間のすることだ…。およそ
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