中国の躍進、フランスの衰退、先進国から新興国への構造改革が進んでいる
2016年07月22日
2011年の福島原発事故から5年たった今、世界の原子力産業は果たして、衰退に向かっているのか、今後も成長していくのか。原子力をめぐる議論は賛成派、反対派からの情報がともに自らに有利な情報を流していることが多いため、実態を客観的に見つめることが難しくなっている。その中で、独立のエネルギー専門家であるM.シュナイダー、A. フロガット両氏が編集して毎年発表している「世界の原子力産業報告(The World Nuclear Industry Status Report)2016年版」がこのたび発表された。 この報告書は、分析データが豊富で、政府や公的機関とは異なり、現状を冷静に見つめる意味で、多くのエネルギー専門家から高く評価されている。国際原子力機関の報告や最近筆者が参加した国際会議での情報も加えて、世界の原子力発電の現状と将来を考えてみたい。
まず、世界の総原子力発電量の推移であるが、2015年は昨年に比べ微増(1.3%)となった。その主要因は中国の急速な伸び(31%)にある。世界の総発電電力量に占める原子力発電比率は90年代前半のピーク(17.6%)からは大きく減少しているが、ここ3年ほどは安定(~10%)している。これも中国が伸びているからだ。端的に言えば世界の原子力発電は、中国を除けば停滞気味で、中国の躍進でなんとか安定化している、というのが現状だ。
データがまさにそれを示している。2015年中に新規に運転開始した原発は10基だが、そのうちの8基が中国、これらはすべて福島事故以前に建設を開始したものである。2015年中に建設開始した原発は8基(昨年は15基)、そのうち中国が6基(同10基)を占めている。建設中は2013年の67基から58基に減少しており、そのうち21基が中国である。
また、建設中の14か国の全てで計画に遅れが出ており、6つのプロジェクトが10年以上(そのうち3つは30年以上)も遅れている。この傾向は中国も例外ではなく、建設中21基のうち少なくとも10基に遅れが出ている。新たに原子力を導入しようとしている新興国もUAEとベラルーシを除くと建設計画に遅れが出ており、チリとインドネシアはついに計画を断念している。
一方、原子力発電所の高齢化がさらに進んでいる。原子力発電所の平均年齢(発電容量で重み付けした平均)は29年となり、全基数の約半分以上(215基)が30年を超えた。40年を超えているのは59基であり、そのうち37基が米国だ。寿命(40年)前の早期廃炉が8基(日本、スウェーデン、スイス、台湾、米国)となっている。
原子力の将来を探るうえで、寿命を迎える原子力発電所の更新ができるか、が鍵となる。まず寿命延長の見通しであるが、
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