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日本の大学の世界ランクはなぜ落ちる一方なのか

アメリカの博士課程教育を内側から見てわかったこと

古井貞煕 豊田工業大学シカゴ校 (TTIC) 学長

 6月に発表された英タイムズ・ハイアー・エデュケーション(Times Higher Education:THE)の「アジア大学ランキング」で、3年連続アジア1位だった東京大学が7位と大きく順位を落としたことが話題になっている。世界全体では、上位はほとんどアメリカの大学によって占められ、日本の大学のランキングは下降の一途をたどっている。

 筆者は、3年余り前から、アメリカのシカゴにあるToyota Technological Institute at Chicago (TTIC、豊田工業大学シカゴ校)の学長を務めている。日本人でアメリカの大学の学長を務めるのは、筆者が初めてではないかと思う。その経験を踏まえ、なぜ日本の大学のランキングが低下するばかりなのか、原因を探ってみたい。

拡大TTICの授業風景=写真はいずれも筆者提供

 TTICは豊田工業大学とシカゴ大学が協力して、トヨタ自動車からの基金をベースに2003年に開学した、計算機科学の博士課程のみの大学院大学である。シカゴ大学のキャンパスの中にあり、シカゴ大学と密接に連携している。トヨタ自動車の社会貢献として位置づけられており、機械学習、あるいは人工知能(AI)に関する理論と応用を中心とする教育と研究での、世界トップレベルを目指している。

 TTICの現在の構成は、教員23名、学生27名で、それぞれ30名体制を目指している。アメリカの大学の博士課程は、前期・後期一貫した課程になっており、中途段階で修士の学位を与えられることはあるが、あくまで博士号を取得するまでのプロセスの一部に過ぎず、日本の修士論文に相当するものはない。博士課程前半では、研究テーマは決めず、専門分野の基礎知識の習得を目的としたコースワークの履修が重視される。各科目について、毎週8時間くらいかかる宿題が出される。よい宿題を出さないと、学生から苦情が出る。学生による厳しい授業評価があるので、教員も授業の準備を含めて、真剣にならざるを得ない。学生の成績が公平につけられているかどうかも、学生から評価される。

 アメリカの一流大学の博士課程は、学費を徴収せず、給料(stipend)を支給するのが普通であり、TTICも同様である。学生は、しっかり勉強して、研究の成果を上げ、博士号を取得する見込みがあれば継続できるが、その見込みがないと判断されると、退学させられる。このため、学生は、ものすごく勉強する。入学してから2年後を目安に、研究基礎力試験(Qualifying Examination=QE)を経て、博士候補者(Ph.D Candidates)が選抜され、その後個別研究テーマへと焦点化されていく。Candidatesになってから脱落する学生の割合を減らすため、厳しいQEが行われる。アメリカの一流大学の計算機科学で、博士の学位が取得できるのは、入学した学生の半分くらいである。

 各授業には、他の教員1名が評価者として指名されており、学生の授業評価も考慮しながら、各授業の評価会議を行い、改善のためのアドバイスをする。このような評価システムそのものの評価と見直しも常に行われている。

拡大TTICの建物の中

 日本に比べて、アメリカの大学の博士課程教育は、教員も学生もはるかに真剣に取り組んでいることが、以上の説明からもおわかりいただけるだろう。これが、アメリカの科学技術の進歩を支えている。高いレベルの研究を進める上で、博士課程の学生の研究が果たしている役割は極めて大きく、大学の高いステータスを確立する上でも、博士を取得する学生の質を高く維持していることが、極めて重要である。

 そのため、学生の成績評価は教員全員で取り組む。年に2回、全教員が集まる評価委員会が開かれ、各学生の履修状況や成績、研究の進捗状況をチェックし、今後の指導方針を確認する。これはアメリカの大学では当たり前のやり方で、 ・・・続きを読む
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筆者

古井貞煕

古井貞煕(ふるい・さだおき) 豊田工業大学シカゴ校 (TTIC) 学長

豊田工業大学シカゴ校(Toyota Technological Institute at Chicago=TTIC) 学長。1968年東京大学卒。工学博士。NTT研究所を経て、1997年より東京工業大学大学院計算工学専攻教授。2011年同名誉教授。2013年より現職。音声認識、話者認識、音声知覚、音声合成などの研究に従事。科学技術庁長官賞、文部科学大臣表彰、NHK放送文化賞、大川賞受賞、紫綬褒章受章、文化功労者。種々の学会から功績賞、業績賞、論文賞、Fellowなど受賞。国内外の学会の会長、学会誌の編集長などを歴任。

 

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