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「ポケモンGO」は狩猟本能を刺激する ?

いつのまにか消えた「夏休みの昆虫採集」復権の好機か?!

大谷剛 兵庫県立大学名誉教授(動物学)

 マスコミが「ポケモンGO」の話題にたちまち席巻されている。このゲームアプリは世界中で大人気である。なぜ、これほどまでに人気なのか。おそらく、初期の人類進化の中で培ったと考えられる「狩猟本能」がうまい具合に刺激され、満足させられるからではないだろうか。現代の社会の中で狩猟本能を満足させる環境はどんどん狭められて、この欲求不満がくすぶり続けていた反動とも解釈できそうだ。

 通常、子どもたちの狩猟本能は虫取りで満たされる。ほとんどの子ども(少なくとも男児)は虫取りが大好きで、多くの昆虫が出回る夏休みには朝早くから虫取りに夢中になる。だが、低学年から高学年になって体力・知力がついてくると、どんどんスポーツの方に移行していく。移行しない子どもも少し存在する。体力に問題のあったり、虫取りからレベルアップして、「昆虫標本づくり」に入り込んだりした子どもである。

 私自身は、小学校の1年生の夏休みから昆虫採集を始めた。しかし、採集した昆虫を「見よう見まね」で標本にして、標本箱に並べていき、標本箱が増えてくると、夏休みの枠からはみ出ていく。昆虫は早春からいるのだ。暖かくなっていくにつれ、数が増えていく。ギフチョウのように4月の後半にだけ出現して、交尾・産卵・孵化し、カンアオイという植物だけを食べ、3回脱皮すると、蛹(さなぎ)になり、そのままずっと眠り続け、翌年の4月の後半に羽化するという「年1化」の生活史を送る昆虫もいる。タイミングを逃すわけにはいかないのだ。

 「虫取り」と「昆虫標本づくり」の間には、実は大きな壁がある。狩猟本能にまかせて捕りまくる場合、捕った虫は死体にすぎない。ところが、一匹一匹丁寧に形を整え、後に種名決定し、ラベルをつけ、標本箱に納めていく作業によって、虫の死体は「科学的な価値のある標本」に変貌するのだ。

 私自身の経験でいえば、カブトムシ・クワガタムシ・カミキリムシといった定番の大型昆虫から標本づくりが始まった。セミ類・トンボ類という子どもの好きな昆虫はもちろん、アゲハチョウ類・タテハチョウ類を次々と制覇していき、カメムシやシリアゲムシ、バッタ・コオロギ・キリギリスに手を伸ばすようになると、後は普通の昆虫少年が手を出さない5ミリ以下の昆虫や嫌われ者のガ類やゴキブリ類も標本箱に登場してくる。

拡大2000年の夏に家族6人で石垣島・西表島を昆虫採集旅行したときの標本の一部。主に息子3人が採集し、小4と小3の長男次男は自分で標本を作った。

 こうなってくると、どんどん楽しくなってくる。標本づくりの技術も自ずと向上して、昆虫の標本箱はとどまるところを知らず増殖する。標本づくりが上手な子供は一端(いっぱし)の研究者になったつもりである。

 ここまでのところは、私の中学生時代の頃で、半世紀以上も前の話である。昆虫も今よりたくさんいたし、小中学校の夏休みの宿題のテーマに「昆虫標本」というのが存在した。これが夏休みの宿題のテーマから消えていったのは、いつごろからなのだろうか。

 兵庫県立人と自然の博物館の職員だった頃、何度か小学校で「昆虫標本づくり」の話をしたことがあった。子どもたちの反応は意外なものだった。「そんな小さな虫に針を刺すなんて残酷な・・・」という声が出たのだ。「昆虫を標本にする」ことは、「学問的な」ことであっても「残酷な」こととは一度も考えたことがなかった私は、大変驚いた。

 子どもは面白いから「虫取り」するのであって、「残酷」とは考えない。そんな難しい抽象的な言葉は大人のものだ。持ち込んだ犯人は ・・・続きを読む
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筆者

大谷剛

大谷剛(おおたに・たけし) 兵庫県立大学名誉教授(動物学)

兵庫県立大学名誉教授、神戸女学院大学非常勤講師。1947年、福島県生まれ。東京農業大学卒業後、北大大学院に進み、(有)栗林自然写真研究所、(財)東京動物園協会を経て、兵庫県立人と自然の博物館と兵庫県立大学を2013年に定年退職。専門は昆虫行動学。『ミツバチ』(偕成社)、『昆虫のふしぎ─色と形のひみつ』(あかね書房)、『昆虫─大きくなれない擬態者たち』(農文協)など。

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