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ドーピング汚染はずっとマシになっている

リオ五輪を前に世界反ドーピング機関(WADA)の元副会長が明言

高橋真理子 朝日新聞 科学コーディネーター

 スポーツにおけるドーピング(禁止薬物使用)は広がる一方と感じているかもしれないが、オリンピックに出場するようなトップアスリートの状況は昔に比べたらはるかにマシだ--リオ五輪開幕を前に、世界反ドーピング機関(WADA)の元副会長のアルネ・ユンクヴィスト・カロリンスカ医科大学教授はこう明言した。ロシアの国家ぐるみの違反を明らかにしたWADAのマクラーレン報告書にはショックを受けたと言いつつ、「リオに出場する選手のほとんどはクリーンだ」と請け合った。

拡大世界反ドーピング機関(WADA)元副会長のアルネ・ユンクヴィスト・カロリンスカ医科大学教授

 ステロイドなどの筋肉増強剤や興奮剤といった薬を使い、競技能力を高めようとするのがドーピングだ。これは選手自身の健康を害するとわかり、競技団体が相次いで使用禁止を宣言した。国際オリンピック委員会(IOC)がドーピング検査を初めて実施したのは1968年のグルノーブル冬季五輪・メキシコ五輪で、以後、反ドーピング活動はIOCの大事な仕事の一つになった。

 問題が広がってきたことからIOCは各国政府に呼びかけて1999年にWADAを設立。それからはここが独立機関としてドーピングを取り締まるようになった。WADAは各国にある検査機関を、分析能力を評価したうえで公認し、そこが選手の検体を分析して違反者を見つけ出すシステムを作り上げた。

 昨年11月にWADAが設置したマクラーレン委員会(委員長のリチャード・マクラーレン教授の名前からこう呼ばれる)が公表した335ページの報告書で、ロシア陸上界が組織ぐるみでドーピング違反を続けていたことが明らかにされた。ロシア国内の公認機関が不正に協力していたことは、とくに大きな衝撃を与えた。

 さらに今年7月18日になって、ロシアでは陸上に限らず大半の競技で検体をすり替えるなどの手法でドーピング隠しが行われてきたとする報告書も公表された。これで、ロシアの選手は一人もリオ五輪に参加できないかと思われたが、IOCは8月2日に開かれた総会で、ロシア選手団を全面的には除外せず、条件付きで認めることを決めた。ロシア五輪委員会によると、当初予定の半数以上が参加の見通しとなったという。

 ユンクヴィスト教授は7月26日、英国マンチェスターで開かれた欧州サイエンスオープンフォーラム(ESOF)でドーピングをテーマにした分科会に参加し、その前に会見を開いて記者たちの質問に答えた。「反ドーピング活動に最初期から取り組んできた人々の中で、私はおそらく唯一の生き残りだと思う」と話し始めた教授は、1週間ほど前に公表されたばかりの報告書にショックを受けたと語った。

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 「ソチ冬季五輪(2014年)のとき、私はIOC医事委員会委員長としてドーピング検査の責任者を務めていた。その私が寝ている夜の間に、ロシア人たちは背後で動き回っていたというわけだ。実験室の壁の穴から検体を取り換えていたんだ。こんなことは小説ではありえても、現実にはあるわけないと思うだろう。だが、残念なことに、彼らに欺かれたのはこれが初めてではなかった」

 「2008年の北京五輪のとき、 ・・・続きを読む
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筆者

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ) 朝日新聞 科学コーディネーター

朝日新聞 科学コーディネーター。1979年朝日新聞入社、「科学朝日」編集部員や論説委員(科学技術、医療担当)、科学部次長、科学エディター(部長)などを務める。著書に『最新 子宮頸がん予防――ワクチンと検診の正しい受け方』、共著書に『村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?』『独創技術たちの苦闘』『生かされなかった教訓-巨大地震が原発を襲った』など、訳書に『ノーベル賞を獲った男』(共訳)、『量子力学の基本原理 なぜ常識と相容れないのか』。

 

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