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4光年しか離れていない星にもう一つの地球?

もはやSFではない系外惑星探査

須藤靖 東京大学教授(宇宙物理学)

 欧州南天天文台(ESO)がプロキシマ・ケンタウリに生命が存在しうる惑星を発見したことを2016年8月25日に発表し、世界中で大きな話題となった。

 わずか20年ほど前まで、多くの科学者は我が太陽系は宇宙でただ一つの奇跡の惑星系であると考えていた。地球以外に生命を宿す惑星が存在する可能性はほぼ絶望的と考えるのが「真っ当な」科学者だった。一方、SF小説においては、宇宙人は当たり前。その代表例は、火星人やケンタウルス座アルファ星人で、しばしばこの地球を侵略したりあるいはこっそり侵入し共存したりしている。しかし今や、これらもあながち荒唐無稽とばかり言っていられないかもしれない。

 ケンタウルス座アルファ星は太陽から最も近い恒星として知られているが、実は3つの恒星からなる3重連星系である。その主星Aと伴星Bは肉眼でも観測できる。ただし、お互いに周期79年という比較的短周期、したがって近距離を公転しているため、双眼鏡や望遠鏡を用いない限り連星系だとはわからない。さらに、それらの周りを周期50万年で公転しているのが第二伴星C、別名、プロキシマ・ケンタウリ(以下、プロキシマと呼ぶ)である。これは暗くて肉眼では見えないため、1915年になってやっと発見された。

 地球からプロキシマまでの距離は4.25光年なので、4.36光年である主星Aと伴星Bよりも少しだけ近い。そのプロキシマを中心星として周りを約11日で公転する地球の1.3倍程度の質量をもつ惑星(プロキシマb:惑星はその中心星の名前の後に小文字のアルファベットをつけて呼ばれることになっている)が今回発見されたのだ。この公転周期から考えると、プロキシマbの公転半径は、地球の公転半径のわずか20分の1。しかし、プロキシマは、太陽に対して半径は14%、質量は12%、明るさはわずか0.2%しかない小さく暗い恒星である。そのためプロキシマbは、これだけ中心星に近くても、仮に水が存在したとすれば、蒸発も凍結もせず液体として表面に残りうる適度な温度範囲にある可能性が高い。

ハビタブル惑星プロキシマb(手前)からみた中心星プロキシマの想像図
出典:http://www.eso.org/public/news/eso1629/

 水が液体として存在しうる温度の地球型惑星は、ハビタブル(居住可能)惑星と呼ばれることが多いので、プロキシマbは地球にもっとも近いハビタブル惑星ということになる。地球史においては、海の存在が生命の誕生と進化に本質的な役割をしたことは事実である。だからといって、液体の水を保持し得る温度範囲というだけでハビタブルといった大げさな名前で呼ぶのはおかしいのだが(水がある証拠はないし、ましてやそこに生命がある兆候はない。少なくとも現時点では)、慣用だから仕方ない。にもかかわらず、「ハビタブル惑星を発見した」といった発表は、おそらく現時点での科学的意義をはるかに超えて一般の方々の好奇心を刺激したに違いない。

 ちなみにハビタブル惑星(候補)そのものはすでに10個程度の報告がある。しかしながら、プロキシマは桁違いに地球に近いため、これからいくら無数のハビタブル惑星が発見されようと、実際に探査機を送る可能性を考えるとすれば、最適あるいは唯一とすら言って良い天体なのだ。

今年4月12日にニューヨークで開かれたブレイクスルー・スターショット計画の記者会見。スティーブン・ホーキング博士らが参加した=Bryan Bedder撮影、Getty Images for Breakthrough Prize Foundation提供

 そもそも今回の発表より前の2015年、プロキシマに探査機を送るプロジェクトがすでに発足していた。これはロシアのIT長者として有名なユリ・ミルナーが中心となって立ち上げたもので、ブレイクスルー・イニシャティブと名付けられ、

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