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ノーベル物理学賞は「重力波の直接観測」

今世紀最大の発見の一つで文句なし、いずれ理論家の受賞も?

大栗博司 理論物理学者、カリフォルニア工科大学教授

 WEBRONZAの編集部から、ノーベル物理学賞授賞者の予想記事の依頼を受けた。今年で4回目になる。2013年には「本命は、素粒子物理学の分野のヒッグス粒子の発見であると思う」と書き2014年には「トポロジカルな絶縁体の予言と検証もしくは青色発光ダイオードの実現に授賞されると予想する」と書いて、いずれも正解だった。

 昨年2015年の記事では、「素粒子物理学が対象であれば、ニュートリノの質量の発見が有力だと思う」と書いたところでやめておけばよかったのだが、最後に「太陽系外惑星の発見に対して、メイヨール、ケロス、マーシーの3名に授賞されると予想する」とまとめてしまった。太陽系外惑星の発見は、「天文学としては重要な発見であるが、ニュートリノやエックス線のように物理学として斬新な観測方法が用いられたわけでなく、また、その結果が直ちに物理学にインパクトを与えるわけでもない」ので、ノーベル賞委員会が「物理学賞」として適切と判断するかどうか躊躇した。しかし、「ノーベル賞は、宇宙の膨張という世紀の大発見を顕彰する機会を逃している。私たちの世界観に大きなインパクトを与えた太陽系外惑星の発見への授賞を見送るのは残念だと思う」と考えて予想したのだった。

拡大昨年、ノーベル物理学賞を受ける梶田隆章さん=2015年12月10日、ストックホルム

 実際には、「ニュートリノに質量があることを示すニュートリノ振動の発見」に対しノーベル賞が授賞され、日本のニュートリノ研究の成果が讃えられた。予想が外れてよかったと思う。

 太陽系外惑星の発見に対するノーベル賞候補として挙げた3人のうち、ジェフリー・マーシーについては、昨年のノーベル賞が発表された直後の10月10日付のニューヨークタイムズ紙などで、所属していたカリフォルニア大学バークレイ校から、セクシャルハラスメントで処分されていたことが報道された。そして、その数日後には、同校の教授職を辞任することになった。その経緯については、このWEBRONZAの須藤靖の記事に詳しく解説されている。このようなことがあったので、今年のノーベル賞候補となるのは難しそうだ。

 そこで、今年のノーベル物理学賞だが、「重力波の直接観測」に対して、カリフォルニア工科大学のキップ・ソーンとロナルド・ドレーバー、マサチューセッツ工科大学のライナー・ワイスの3名が受賞するのは、ほぼ確実だろう。

 カリフォルニア工科大学とマサチューセッツ工科大学が運営している重力波天文台LIGOが、昨年の9月14日に13億光年かなたのブラックホール合体から届いた重力波を検出し、それを今年の日本時間2月12日に発表した。その意義については、WEBRONZAで同日に配信した私の記事を参照していただきたい。

 私は、 ・・・続きを読む
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筆者

大栗博司

大栗博司(おおぐり・ひろし) 理論物理学者、カリフォルニア工科大学教授

カリフォルニア工科大学ウォルター・バーク理論物理学研究所所長およびフレッド・カブリ冠教授。東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究員。アメリカ芸術科学アカデミー会員。1962年生まれ。京都大学理学部卒、東京大学理学博士。プリンストン高等研究所研究員、シカゴ大学助教授、京都大学助教授、カリフォルニア大学バークレイ校教授などを歴任。著書に『重力とは何か』『強い力と弱い力』『数学の言葉で世界を見たら』(いずれも幻冬舎)、『大栗先生の超弦理論入門』(ブルーバックス)など。

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