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 今回のリオでは、パラリンピックの注目度が高かった。ドーピングや贈収賄など醜悪な面をさらけ出しているオリンピックに比べれば、障害者の活躍を賞賛する方が「政治正義」にも近い。ある意味安心して応援できる。そんな心理的な背景もあると言ったらうがち過ぎだろうか。また競技の中身もさることながら、記録の更新と器具のハイテクに注目が集まった。誤解を恐れずに言えば、パラリンピックには「未来形の面白さ」がある。

記録がオリンピックに追いついた

 ついに期待されていたことが(恐れていたことが?)起きた。パラリンピックの優勝記録がオリンピックのそれを上回ってしまったのだ。男子陸上1500メートル(T13 視覚障害クラス)で、優勝から4位までの全選手が、今回のオリンピックの優勝タイムを上回るタイムを記録した(AFP=時事、9月14日)。

 もちろん話はそれほど単純ではない。1500メートルはもともとかけひきが勝敗を左右する種目だ。今回は特にそれが記録にも表れ、オリンピックの優勝タイムも最近では例を見ない遅さだった。

 だがそれでもこの「事件」は「障害者が健常者を上回る記録を出したらどうなるか」という問題を端的に提起した。「どうなるか」というのは、(健常者と並べて)どういう比較をするべきかという意味もあるし、オリンピックの理念であるはずの「公平性」が危うくなるのでは、という危惧でもある。またそれ以上に「未来身体」(=人と機械のハイブリッド)の行方を占う意味が大きい。

 人類はこのままサイボーグ化して行くのだろうか?

跳びすぎた男

2012年夏のロンドン・オリンピック予選に出場したオスカー・ピストリウス選手=矢木隆晴撮影拡大2012年夏のロンドン・オリンピック予選に出場したオスカー・ピストリウス選手=矢木隆晴撮影
 そもそもこの問題は数年前にすでに生じていた。たとえば陸上競技では、男子短距離(両足切断)のオスカー・ピストリウスの例がある。ピストリウスは特別製の義足を付けて、(出身国である南アフリカの)オリンピック国内選考を勝ち抜くレベルに達した。結果義足の陸上競技選手としては初めて、オリンピック・パラリンピックの双方に出場したが(ロンドン、2012年)、「本当に公平な競争なのか」と一部では疑問視された。後に殺人容疑で有罪となったことを別にしても、競技のより本質的な部分ですでにスキャンダラスだったのだ。 ・・・続きを読む
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筆者

下條信輔

下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。

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