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パリ協定が1年足らずで発効する意味

世界は、なぜ雪崩を打ったのか。日本は、なぜ遅れたのか。

西村六善 日本国際問題研究所客員研究員、元外務省欧亜局長

 パリ協定は2016年11月4日に発効する。パリで採択されてから11カ月だ。京都議定書は7年以上かかった。京都議定書は、2008~12年に先進国の温室効果ガス排出量を、1990年比で5%削減する目標だった。わずか5%の削減を実現するのに、難行苦行だった。

 パリ協定は、もっと大規模なことを目指している。世界の温室効果ガス排出量を今世紀の下半期には実質ゼロにするのだ。脱炭素のエネルギー転換を全球でやるというハナシだ。文明史的転換と言っていい。急いで行動する理由は十分ある。

G20首脳会議で中国の習近平国家主席(右)の出迎えを受ける米国のオバマ大統領=2016年9月4日、中国・杭州、代表撮影 G20首脳会議で中国の習近平国家主席(右)の出迎えを受ける米国のオバマ大統領=2016年9月4日、中国・杭州、代表撮影

目を見張る米中の変化

 最速で発効したのは、米国と中国が主導的役割を果たしたからだ。この両国が最大排出国だから主導的役割を担うのは道義的にも当然だ。欧州連合(EU)やインドも主導的だった。EUは、批准の手続きを特例で短縮した。

 オバマ大統領は、09年のコペンハーゲンの失敗を挽回するだけでなく、早く既成事実をつくって、国内保守派を出し抜く必要もあった。共和党の大統領候補、トランプ氏がパリ協定をキャンセルすると息巻いていたからだ。

 最大の排出国である中国の役割は重要だ。京都議定書時代、中国は「先進国の歴史的責任」を糾弾し、途上国の利害を守護する指導国という役回りだった。しかし、途上国の大部分は最近、著しく安価になってきた再生可能エネルギーに「カエル跳び」している。

 先進国の責任を糾弾する必要性は薄れた。その上、中国は最大の排出国だ。エネルギー転換に真面目に取り組まなければ、途上国はもとより世界中から非難される。だから現に長期構想で自国の脱炭素化を進めている。(「中国は2050年に再生エネ電力85%」)

 それに、世界がエネルギー転換をするという展望は、中国経済に新しい巨大需要を生み出す。アジア・インフラ銀行もその受け皿だろう。

 習近平主席は、9月3日に批准書を寄託した際、「中国は人類の福祉を守る」と言明した。もはや途上国の盟主ではないのだ。早く動かして利益をつかみ取る……そういう意識で、中国がパリ協定の制度設計に大きく乗り出してくる……。当然の展開だ。

ビジネスが急いだ理由 

 主要国がパリ協定の発効を急いだ理由は、制度設計に影響力を行使したいからだ。なぜか? パリ協定は、今後40~50年という長期のスパンで、全球のエネルギー転換を目指す。それを、透明な制度で実現する。要するに、一度制度を決めれば、

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