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宇井純さんが沖縄に残したもの

没後10年に深刻化する水事情

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 宇井純さん(沖縄大学名誉教授)が亡くなられて、今年(2016年)の11月11日でちょうど10年になる。水俣病の原因解明に貢献した業績と、東大万年助手としての20年の経歴で、その名を全国にとどろかせたあの宇井さんである。

 私事になるが、宇井さんが東大で助手として勤務を開始した1965年、水質実験で徹底的にしごかれた学生のうちの一人が私である。当時、工学部都市工学科の4年生であった。そして2000年4月に私が沖縄大学に着任したのも、1986年に沖縄大学に赴任していた宇井さんに強く勧誘されたためであった。

沖縄から日本が見える

 以後16年、沖縄に暮らし、沖縄から日本、アジア、そして世界を眺めている。この16年の沖縄生活の結論は、「沖縄から日本がよく見える」、である。自由、平等、人権、民主主義という「共通の価値観」を有するという日米両国によって沖縄が踏みにじられていることが、節穴の私の目にもよく見えるのである。このように物がよく見える沖縄という地に導いてくれた宇井さんには感謝の他ない。

 宇井さんから学んだことはいろいろあるが、身に染みて実感しているのは「公害に第三者はない」ということである。研究者は、中立の第三者のふりをすることが多いが、それは実は加害者の側なのだという至言である。私は、ことあるたびごとに理由を明示して新基地建設に反対であると主張してきた。その私が、翁長雄志知事が設置した「第三者委員会」に加わり、仲井眞弘多前知事の行った辺野古埋立承認に瑕疵があるか否か、の検証作業を行ったことを、新基地建設に賛成する人々は「中立ではない」と鬼の首でも取ったように批判する。しかし、沖縄に暮らして16年にもなる研究者が、辺野古新基地建設に賛成でも反対でもない中立の第三者だとしたら、それはもはや研究者ではないというのが、宇井さんの主張だ。

 宇井さんも私も環境問題が専門の研究者であるが、専門中の専門は水であり、水屋である。とりわけ汚い水の処理である。その宇井さんが、沖縄の汚水問題として指摘してきたのが赤い水、黒い水である。赤い水とは、農地や公共事業から流出してくる赤土汚染の問題であり、そして黒い水とは、満足に処理されない畜産排水が垂れ流されて黒くなった川の水のことである。その宇井さんがご存命であれば、現在の沖縄の水問題をどのように捉えるだろうか。

沖縄大学での最終講義に臨んだ宇井純さん=2003年1月、那覇市拡大沖縄大学での最終講義に臨んだ宇井純さん=2003年1月、那覇市

 20世紀は、いわゆる「大東亜戦争」も含め石油争いが戦争の原因となった時代であったが、21世紀には水争いが戦争の原因となると言われている。日本は島国であり、河川を国境として他国と接してはいないため実感が乏しいが、水需要の世界的な増大と気候変動による降雨量の変動は、とくに国際河川を挟んで上下(上流・下流)、左右(左岸・右岸)で向き合う国々の間に、時には水戦争にまで及ぶ深刻な対立をもたらすこととなる。

 それとは事情が若干異なるが、沖縄は小さな島であり、降雨量が梅雨期と台風シーズンに集中し、しかも河川が短く、降雨がすぐに海に流出するという事情があって、利用可能な降雨が限られる。これに高い人口密度が重なって、沖縄は日本で一番水需給が厳しい県である。その象徴が、コンクリートの民家の屋上に立ち並ぶ水タンクである。台風と断水に対する庶民の対応が生んだ沖縄のまち特有の風景である。

観光客の水使用は県民の3倍

 さて、観光業を主産業とする沖縄は、今、官民挙げて年間1000万人の観光客誘致を目指している。2015年度の入域観光客数は794万人で、10年前の2005年(暦年)の550万人から244万人、44%も増加している。そこで問題となるのが、急増する観光客への水供給である。県民は一人一日350リットルの水を消費するが、観光客はその3倍、1000リットルも使うからだ。

 エルニーニョの年とラニーニャの年で、降雨量に大きな差が生ずる現象は、今、世界各地で広がっている。そうした中、沖縄は増える観光客に必要な水を供給できるのだろうか。この問題について県が真剣に検討を行っているとは、寡聞にして私の耳には入ってこない。

 「北水南調」の島、沖縄(「飲料水の安全をめぐる沖縄の苦闘」参照)において、ダム群がある米軍北部訓練場で、事故率の高さで悪名高いオスプレイが低空飛行訓練を繰り返し、これらのダムに万が一でも墜落する事態となれば、一挙に沖縄の水問題は沸騰する。宜野座村のキャンプ・ハンセン内で、2013年にHH60ヘリが墜落した際には、宜野座村民の水がめ、大川ダムの取水が停止され、調査への米軍の非協力により取水停止が1年も続いた。

 しかし、例えば福地ダムや新川ダムにオスプレイが墜落すれば ・・・続きを読む
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筆者

桜井国俊

桜井国俊(さくらい・くにとし) 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

1943年生まれ。東京大学卒。工学博士。WHO、JICAなどでながらく途上国の環境問題に取り組む。20年以上にわたって、青年海外協力隊の環境隊員の育成にかかわる。2000年から沖縄暮らし。沖縄大学元学長。

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