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トランプ時代の米国、石炭火力の運命やいかに

環境保護庁長官に石炭規制反対派を起用し、波紋

小林光 東京大学教養学部客員教授(環境経済政策)

 米国では、報道機関の事前予測と異なり、トランプ氏が大統領選を制した。そして、来年初からの執政に向け着々と人事などが進んでいる。その中で、環境保護庁(EPA)長官へのスコット・プルット氏の起用が波紋を呼んでいる。同氏は、オクラホマ州の司法長官で、EPAがかねて進めている石炭火力規制に関し、EPAを訴え、法廷闘争を行っているため、環境規制への抵抗勢力と目されてきたからである。そこで、米国では、石炭火力が息を吹き返す可能性があるのではないかと、見る向きも出てきた。

 果たしてそうであろうか。以下では、日本含めた先進各国の、経済と低炭素化との関係を考察することを目的に、米国においても、また、日本においてこそ石炭火力が生き残る可能性が乏しいことを指摘したい。

日本では、原子力へのテコ入れが進み、石炭火力には逆風が強まる。

 その是非については国論が二分されているが、安倍政権は、原子力の安全規制をクリアーできる原子力発電所については、規制への適合ができた暁には順次運転再開を認めていく立場とされている。

 さらに、報道に依れば、経産省が設置した有識者会議は、原子力発電を円滑に進める上での障害となる東電福島第一原発関係の汚染事故被害を回復する措置の費用を事故当事者でない他の電力会社や新電力と呼ばれる小売り自由化後に登場した会社にも負担させる案を取りまとめた(2016年12月10日、朝日新聞朝刊など)。

次期米大統領のトランプ氏。環境保護局長官の人事で「心配」されている。2016年11月、朝日新聞

 この点を詳細に見ると、汚染事故被害の回復や廃炉に要する費用見積もりを、従前の従来の想定額のほぼ倍の21兆5千億円と見込んだ上で、そのうち、最多額の13兆3千億円を占める賠償額について東電以外の大手電力や新電力会社にも一部(1兆2千億円強)を負担してもらうものであり、これに加え、形式的には汚染原因者の東電や大手電力会社が支払うものの、東電等傘下の送配電網会社が、その送電網を使う電力会社から徴する託送料金(現在は、例えば、1kWhの流し込み当たり8円といったオーダーで、大変高額である旨批判する向きが多い。)の売り上げを充当することを認めた内容になっている。

 かねて、安価との触れ込みで原子力発電の電力を(そうでなかったことに比べ)余分に消費してきてしまった電力需要企業や一般消費者国民に対し、いわば過去の未払い分を請求するような仕掛けである。このように、原子力発電は国の制度によって支えられるものであることが一層鮮明になってきている。

 原子力の優遇策の候補リストはまだ続く。それは、東電他の大手電力に対し、原子力のようなベースロードを担う電源であって「安価な」ものを、強制的に電力市場に放出させ、小売り自由化を担う新電力の電力仕入れ単価を引き下げることに貢献させ、前述の新電力が直接間接に負担する分の賠償金を作りやすくするとの構想である。

 以上を簡単に描写すれば、国ぐるみの原子力起源電力の強制販売によって福島事故の賠償金原資を生み出す仕組みと言えなくもない。

石炭火力の弱点、高炭素密度を克服するため実排出係数の考え方の変更を

 この仕組みが実行に移されると採算が悪い方向に振れるのが、原子力と同じベースロード発電を担う石炭火力である。

 原子力との抱き合わせ販売となり、安価を強調した抜け駆けの販売はしにくくなろう。石炭火力の我勝ちの立地を巡って行われた環境アセスメントの中で、乱立が許されなくなり、2030年のエネルギーミックス(ここでは、石炭火力は2014年度上期実績並みの26%の出力シェアが想定されていて、現状より増加の余地はなくなっている。)との整合確保に向け、現在40基を超えるという新設計画はただでさえ見直しに迫られているが、このことに加え、採算見通しの悪化は厳しい追い打ちとなろう。

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