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「都民ファースト」とは程遠い豊洲移転延期

最重要事項は「築地問題」の解消

唐木英明

 昨年8月に就任した小池新都知事は同年11月に予定されていた築地市場の豊洲移転を延期し、「都民ファースト」の視点から、安全性の確保、費用の検証、情報公開が必要と述べた。その直後の9月、豊洲の汚染対策の一つとして専門家会議が提言した盛土が主要な建物の地下では行われず、代わりに地下室が建設されていることが発覚。さらに地下水のモニタリング調査で環境基準をわずかに超えるベンゼンとヒ素が検出されるとともに、地下室の空気からは国の指針値の最大7倍の水銀が検出された。

 これらの事態を受けて知事は移転の条件として、地下水と大気と建造物の安全性の検証、盛土が前提だった環境影響評価の見直しなどを示し、移転の可否の判断には1、2年かかる見込みという。環境問題は重要だが、残念ながら知事には最重要事項であるべき「都民の食の安全を守る」という視点が欠如している。

 築地と豊洲。それぞれの市場が抱えている問題点をここで冷静に比較し、真の都民ファーストとは何かを考えたい。

築地市場の深刻な状況

 そもそもなぜ豊洲移転が必要だったのか。それは80年以上前の1935年に設置された築地市場の老朽化である。その構造はコンクリートの床に屋根があるだけの解放空間で、ネズミやゴキブリが走り回り、カラスやハトが自由に入ることができる。

拡大築地市場の水産仲卸売場
 そんな外界と同じ環境での魚介類や野菜の取り扱いは発展途上国の路上で行われている露店販売と大差がなく、海外の専門家からは「これが日本を代表する青果市場か」と驚かれるほど衛生面でも防災面でも大きな問題がある。「築地は海水で洗っているから衛生的」などという話を聞くが、東京湾の海水の汚染状況は誰でも知っていることであり、そんな不衛生な海水を使うことは衛生管理上ありえない。

 さらに古い建物には建材としてアスベストが使われ、一応被覆をしてはいるが、地震などで露出して食品を汚染し、そこで働く人の健康に被害がある可能性も指摘されている。このような問題だらけの場所での食品の取り扱いは一日も早く解消して高度の衛生管理が可能な豊洲に移転すべきなのだが、それを延期したことで築地問題の解決を遠のかせることになった。そうであれば改めて築地のリスク評価と管理を早急に実施すべきだが、すでに廃止が決まっているためか、そのような動きはない。

豊洲の環境問題

 それでは豊洲は危険なのか? 新市場の土地は工場だった場所で、ヒ素、水銀、ベンゼンなどによる土壌汚染があった。 ・・・続きを読む
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筆者

唐木英明

唐木英明(からき・ひであき) 東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長

1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部助手、同助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員などを経て、東京大学農学部教授、東京大学アイソトープ総合センターセンター長などを務めた。2008〜11年日本学術会議副会長。11〜13年倉敷芸術科学大学学長。著書「不安の構造―リスクを管理する方法」「牛肉安全宣言―BSE問題は終わった」など。

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