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長期資金はグリーンなインフラ投資に向かっている

その5 上 OECD事務次長、玉木林太郎氏に聞く

石井徹 朝日新聞編集委員(環境、エネルギー)

 OECD(経済協力開発機構)の付属機関であるIEA(国際エネルギー機関)は昨年末、今後5年以内に石炭需要が失速するとのリポートを発表した。

 いわゆる「ピークコール」だ。これまでは先進国での需要が激減する一方で、世界最大の石炭消費国である中国などが需要を引っ張ってきた。だが、それも終わりに近づいたようだ。

 石炭関連会社などへの投資をやめる「ダイベストメント」の動きも広がっている。環境NGOの「350.org」は、二酸化炭素(CO2)を大量に排出する企業から投資の撤退を決めた機関投資家が688団体と個人投資家5万8千人に上ったと発表した。76カ国に及び、運用資産は計5兆ドル(約580兆円)を超えている。

 1年前は500団体、3.4兆ドルだったので大幅に伸びた。パリ協定という明確な目標ができたことで、ビジネスの世界は大きく動いている。CO2排出規制が強まり、石炭火力発電所や炭坑、油田などへの投資が回収できなくなるのではないか、と懸念しているのだ。化石燃料からの投資撤退を決めた団体の半数と、すべての個人投資家は、自然エネルギーへの投資拡大を表明しているという。

 パリ協定発効後の世界のお金の動きはどうなるのか。OECD事務次長の玉木林太郎氏に聞いた。

 たまき・りんたろう 1953年生まれ。76年に大蔵省(現財務省)に入省。OECDの経済局、金融財政企業局などに勤務。2011年から現職。開発、税制、金融、環境(低炭素経済への移行)分野の政策提言をとおし、持続可能な経済成長の推進に尽力している。

 ――OECDが温暖化と金融の問題に取り組むようになったのはいつからですか。

玉木林太郎・OECD事務次長拡大玉木林太郎・OECD事務次長
 玉木 グリーン投資と機関投資家というテーマに取り組むようになったのは、長期投資先の不足が始まりです。

 OECDには年金基金と保険会社という長期投資の担い手の会合があります。彼らは年金債務、保険債務という長期の債務を抱えていますので、資産運用も長期資産で行うのが望ましい。また、市場性の金融資産に傾斜していると資産価格の動きが連動しやすく、これもリスクになる。さらに最近の低金利で利回りの確保が非常に難しくなってきた。

 こうした背景から、年金基金や保険会社といった長期の機関投資家はインフラ投資への関心を高めてきた、ということがあります。機関投資家によるインフラへの投資というテーマは、数年前から活発に行われてきました。

長期資金の投資先が不足

 機関投資家は、全体で1000兆ドルを超える資金を運用しています。世界のインフラ需要を考えると、このような長期資金を動員することがどうしても必要です。特に金融危機以来、インフラ資金の主な出し手であった各国政府の財政状況が悪化し、また銀行の自己資本規制の強化も進んだことで、機関投資家によるインフラ投資への関心は高まらざるを得ません。

 こうした状況下で、低炭素経済への移行に伴うインフラ投資需要の変化・拡大をどうファイナンスするかという課題が議論されています。「グリーンインフラ」への投資需要に機関投資家の資金をあてることはできないか、ということです。この議論は欧州では、3年ぐらい前からすごく盛んになりました。例えばデンマークの年金基金が、デンマークやオランダの海上風力発電の半分を保有したといった事例は山ほどあります。

 といっても、機関投資家のポートフォリオのうちインフラ案件への直接投資は、まだ1%ほどしかない。グリーンインフラへの投資はその中のわずかです。何がインフラ投資、グリーンインフラ投資の障害になっているのか、という議論をOECDではしています。

 ――実際には何が障害になっていることが多いのですか。

 玉木 政策面の問題もありますし、実際的な課題もあります。

 政策面では、保険会社や年金基金が、インフラのようにすぐに現金化できない資産に投資することに対する規制があります。保険・年金債務に見合ったソルベンシー(支払い能力)を確保すると同時に、不時の支出に対応するためのリクイディティー(流動性)をも確保する必要があるからです。

 保険・年金監督当局は、インフラ案件のように評価が難しく、リクイディティーの低い資産の保有には積極的ではありません。一方で、流動性が高い市場性の金融商品、例えば国債や社債、株式などは、先ほど申し上げたように、低金利・低成長の経済状況では十分なリターン、保険契約者や年金契約者に約束したような高いリターンを確保出来なくなっています。

 だからといってインフラへの直接投資をしようとしても実際にはそう簡単ではありません。個別のインフラ案件が将来的にどの程度の収益を生むか、どんなリスクがありうるかを見極めて投資判断をすることは、金融市場で取引されている商品の場合より格段に難しいし特殊な専門性も要求されます。

 インフラ投資、例えば発電所への投資がどの程度のリターンを生んでいるのか、ベンチ・マークとなるデータの整備からして大きな課題です。また、一件あたりの投資規模の大きいインフラ案件は、中小の保険・年金では大きすぎるかもしれないので、資金をプールするメカニズムがないと手が届きません。

 こうした障害や課題は国によって、投資家によって、インフラ案件によってさまざまですが、長期資金を長期の投資ニーズと何とかマッチさせて、必要なインフラ整備を行っていこうというのは、世界的な課題として2014年ごろからG20でも議論されるようになり、 ・・・続きを読む
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筆者

石井徹

石井徹(いしい・とおる) 朝日新聞編集委員(環境、エネルギー)

朝日新聞編集委員。東京都出身。1985年朝日新聞入社、盛岡支局員、社会部員、千葉総局次長、青森総局長などを務めた。97年の地球温暖化防止京都会議(COP3)以降、国内外の環境問題やエネルギー問題を中心に取材・執筆活動を続けている。共著に「地球異変」「地球よ 環境元年宣言」「エコウオーズ」など。

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