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環境問題でトランプ氏を説得するには?

「異常気象が増えた」は誤情報、科学的データをもとに米国経済への影響を論じるべし

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 米国大統領に就任したトランプ氏は二酸化炭素排出問題に非協力的な立場であることで知られているが、態度を変える可能性はある。例えば、地球温暖化による米国産業へのダメージが無視できない場合、実業家としての視点から、温暖化問題に真剣に取り組むのではないか。私はそこが突破口だと考えている。

 ただし、温度上昇と、それに伴う海上上昇だけの影響だと、米国産業を揺るがすには不十分だ。というのも気温が3度上がったところで、都市化による温度上昇より少ないし(『猛暑の原因に関する3つの誤解』)、海面が数メートル上がった程度では「堤防を作る」と答えるだろうからだ。メキシコ国境に壁を作るという発言をした男なのだ。しかも自国優先主義だから、太平洋の島国が冠水の危険にさらされても気にするまい。

シミュレーションで予想された異常気象

 地球温暖化の影響は、温度上昇や海面上昇にとどまらない。降水量や気圧配置(前線やハリケーンの位置)など気候が変わることが予想され、異常気象が増える可能性も示唆されている。降水量は農業に、気圧配置は広くインフラや経済活動にダメージを与え得る。悪影響が世界に及べば、それが米国経済にもはね返るはずだ。

 実は1980年代後半、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が成立したてのころに、米国共和党政権は温暖化問題に今より前向きだった。その理由のひとつに、1988年夏の米国農業地帯での干ばつがある。当時、プリンストン大学の真鍋淑郎博士が、二酸化炭素問題による温室効果の副次的な効果で大規模な干ばつが起こりうることを数値シミュレーションで示唆し、それが広く知られた直後に干ばつが起こってしまったからだ。

カトリーナ・ハリケーン上陸から3カ月以上たっても陸に打ち上げられたままの洋上カジノ=2005年12月12日、ミシシッピ州ビロクシー、青山芳久撮影

 それ以降、異常気象(極端な気象現象)が起こるたびに、短絡的に地球温暖化と結びつける風潮が生まれた。例えば、史上最大の被害額を与えたハリケーン・カトリーナ(2005年:ニューオーリーンズ市の完全封鎖や石油関連施設の破壊で知られる)は地球温暖化の影響ではないかと騒がれた。

 しかし、それが正しいかどうかは別だ。異常気象や天変地異を「長期的な悪化の前兆」と解釈してしまうのは、人情としては自然だが、科学的に検証されたわけではない。未だに、地球温暖化と異常気象(極端な気象現象)の関係は解明されていないし、ましてや二酸化炭素の影響と他の要因(太陽活動とか都市化)との相対評価は全くできていない。

データで確認する必要

図1:竜巻の観測件数の推移。弱い竜巻まで含むと、観測能力の向上がそのまま観測件数に反映されるので、あたかも年々増えているように見えるが、それは発生頻度と異なる。
NOAAの竜巻報告
 防災の原理に従えば、真偽がはっきりしない限り「最悪シナリオ」を想定するのは間違ってはいない。だからこそ、オバマ前大統領は2014年の演説で、温暖化による異常気象の増加を警告した。しかし、トランプ氏に対策の必要性を納得させるには、
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