iPS細胞でも起きる倫理的問題
2017年02月03日
いわゆる不妊治療の一環として、体の外で精子と卵子を受精させることを「体外受精」という。英語では「in vitro fertilization」といい、メディアでは「IVF」と略されることが多い。現在、これに似た「IVG」という略語が英語圏で使われ始めている。正確には「in vitro gametogenesis」といい、訳せば「体外配偶子形成」といったところか。
「配偶子」とは、簡単にいえば精子や卵子のことである。つまり体外配偶子形成とは、体の外で精子や卵子をつくることであり、「生殖に革命を起こす」ものといわれることもある。
2016年10月、九州大学の林克彦教授らからなる研究グループは、マウスの尻尾の細胞からつくったiPS細胞(人工多能性幹細胞)で、卵子や精子のもとになる「始原生殖細胞」をつくり、さらにそれから卵子をつくることに成功したと報告した。この卵子から子どもをつくることもできた。実験室での培養だけで卵子をつくることができたのは初めてである。
マスコミや教科書では「iPS細胞には倫理的問題がない」と説明されることがあるが、研究者の多くは「iPS細胞にも倫理的問題がある」と考えており、筆者も同意する(『AERA(アエラ)』2016年11月28日号、『dot.』同日付に転載)。倫理的問題を起こす可能性のある応用方法の1つが、「iPS細胞から精子や卵子をつくること」、つまり体外配偶子形成である。
最近、著名な幹細胞研究者ジョージ・Q・デイリーらがこの体外配偶子形成をめぐる争点を、専門誌『サイエンス・トランスレーショナル・メディスン』でまとめた。本稿では彼らの見解や、生命倫理のニュースサイト『バイオエッジ』の記事などを参考にして、体外配偶子形成が直面するであろう倫理的問題を整理してみる。
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