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豊洲への早期移転が望ましい理由

厳しすぎる土壌環境基準、環境対策にお金と時間をかけすぎてはいけない

中西準子 産業技術総合研究所名誉フェロー

豊洲市場に水道はあるの?

拡大記者会見で豊洲市場について語る小池百合子知事=2017年1月20日、東京都庁、伊藤あずさ撮影
 小池百合子東京都知事の登場で、豊洲市場予定地の安全問題について、私の周囲にいる高齢者の女性たちの関心も高まり、昨年の秋口は集まるとその話題という状況だった。誰もが「もう、安心してマグロの刺身もダメね」というような心配を口にしていた。筆者は、あるとき、聞いてみた。どうして、と。「あんな水で洗った刺身なんか食べられない」。地下水は、市場では使わないと説明すると、「では、水はどうするの?」となり、掃除も含めて水道水を使うと答えると、「水道があるのか」とつぶやくような声になった。そこにいた他の人も、大半は、市場では井戸水で魚や、まな板を洗うと考えて、ニュースを聴いていたようだった。

 もちろん、これは完全な間違いである。

 東京都は「豊洲市場において地下水の飲用その他の利用は予定していないため、問題は生じない」とはっきり言っているし、土壌汚染対策法(以下、土対法)でも、地下水利用はないということで対策が議論されている。豊洲市場予定地は有害物質が残っていることが分かっており、土対法に拠って汚染物が除去されてきた。それでも、まだ完全ではないという疑いは常に流布されている。

 確かに、全く有害物がないとはいえない。こういう場合に一番重要なのは、もし、そこに有害物があった時、どの経路で、どのくらいの量が人体に入るか、そして、何が起きるかを決めることである。それが、リスク評価である。

 飲食物の場合は、直接体内に入るから、摂取の経路についての議論は不要だが、環境汚染の場合には、摂取経路の確定を真っ先に行わなければならない。しかるに、豊洲市場の場合、摂取経路が分からぬまま議論されている。これでは将来に禍根を残すのではないだろうか。

土壌汚染対策法とは何か?

 環境省が出しているパンフレット「土壌汚染のしくみ」(VER.4, 2016.8)には、「土壌汚染があっても、すぐに私たちの健康に悪い影響があるわけではありません」「土壌汚染対策法は、これらの健康リスクをきちんと管理するために作られました」と、同法の精神が述べられている。

 同法では、まず汚染を認定するか否かの「認定段階」があり、ここで汚染と認定された場合に、人の健康に対するリスクを判断する「リスク分類段階」になる。判断には、3つの基準が使われる。有害物質含有量基準(以下、含有量基準)、有害物質溶出量基準(以下、溶出量基準)、そして地下水水質基準である。

 含有量と溶出量が基準を超過した場合に、「土壌汚染あり」と認定するのが認定段階。次のリスク分類段階では、摂取経路を判断し、飲用の経路ありとなれば「地下水水質基準」と比較し、また、直接摂取の経路がある場合には「含有量基準」と比較してリスクの有無を判断する。

 「おそれあり(リスクあり)」の場合には「要措置区域」となり、汚染の除去や封じ込めが必要になる。「おそれなし(リスク無し)」の場合には、「形質変更時要届出区域」となり、除去や封じ込めは求められず、大きな工事などの場合に届出が必要なだけである 。

環境基準が抱える問題点

 新聞やTVは、しばしば環境基準の何倍と言うが、環境基準とは何か?

 本来、 ・・・続きを読む
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筆者

中西準子

中西準子(なかにし・じゅんこ) 産業技術総合研究所名誉フェロー

産業技術総合研究所名誉フェロー。東京大学工学系大学院博士課程修了。工学博士。東京大学教授、横浜国立大学大学院教授などを経て産業技術総合研究所フェロー。現在は一線を退いた。専門は環境リスク論。『環境リスク学』(日本評論社)で毎日出版文化賞。2010年、文化功労者に選ばれた。