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NHKのSTAP検証番組、人権侵害があったのか

「あった」というBPO勧告、だが「ない」とする少数意見に理がある

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

 STAP細胞論文の研究不正問題を検証した「NHKスペシャル」について、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会(坂井眞委員長)が「小保方晴子・元理化学研究所研究員の名誉を毀損(きそん)する人権侵害があった」と認定した。ただし、決定文の中には「人権侵害はなかった」と主張する少数意見が2つ併記された。いずれの少数意見も「放送倫理上の問題はあった」と主張しており、NHKに問題がなかったと言っているわけではない。しかし、報道内容は名誉毀損に当たらないとしている。私はこの少数意見に理があると思う。

BPO勧告の公表を受けて取材に応じる小保方氏の代理人の三木秀夫弁護士(左)=2月10日、大阪市北区、阿部彰芳撮影

 NHKスペシャルは「調査報告 STAP細胞 不正の深層」のタイトルで2014年7月27日に放映された。STAP細胞はこの年の1月に華々しく記者会見で発見が公表され、以後、さまざまな不備や不正が発覚して7月に論文が取り下げられた。NHKは「100人を超える科学者や関係者らを取材」し、検証番組を作った。

 BPOはNHKと民放連によって設置された第三者機関で、視聴者から問題があると指摘された番組を検証して見解を出す。今回は、小保方晴子氏が2015年7月に「この番組で人権が侵害された」とBPO放送人権委員会に申し立て、8月に審理入りを決定、今年2月10日に「委員会決定」を公表した。

真実性・相当性があったかどうか

 「決定の概要」の主要部分を以下に引用する。

 STAP細胞の正体はES細胞である可能性が高いこと、また、そのES細胞は、若山研究室の元留学生が作製し、申立人の研究室で使われる冷凍庫に保管されていたものであって、これを申立人が何らかの不正行為により入手し混入してSTAP細胞を作製した疑惑があるとする事実等を摘示するものとなっている。これについては真実性・相当性が認められず、名誉毀損の人権侵害が認められる。

 これを読んだ私の頭の中は「?」であふれかえった。「STAP細胞の正体はES細胞である可能性が高いこと」について「真実性・相当性が認められない」とはどういうことか?この年の12月に理化学研究所「研究論文に関する調査委員会」(桂勲委員長)は「STAP細胞とされた細胞の正体はES細胞だった」とする内容の第2次報告書を出している。放映時点ではこの報告書はまだ出ていなかったとはいえ、「ES細胞である可能性が高いこと」には当時から真実性・相当性があったはずだ。

 「委員会の判断」の部分を読んで、多数意見の論理立てが理解できた。さすがにここについては、真実性・相当性があったと認定している。なかったと判断しているのは、

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