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STAP検証のNHK番組はナレーションが不十分

BPOが指摘しなかったもう一つの問題、取材を掘り下げればより真相に迫れた可能性も

粥川準二 サイエンスライター

 小保方晴子氏は2015年7月10日、NHKスペシャルの『調査報告 STAP細胞 不正の深層』(2014年7月24日放送)によって人権を侵害されたと放送倫理・番組向上機構(BPO)に申し立てた。BPOは審理を開始し、今年2月10日、「勧告」をまとめ、番組の一部について「名誉毀損の人権侵害が認められる」とし、再発防止をNHKに求めた。

 BPOは問題となったパートに「編集上の問題」があったとみなしているが(勧告2ページ)、筆者はナレーションの不十分さもあったと考える。

認められたのは「盗んだ印象」と「取材方法」

 まず当然のことながら、BPOがこの番組における人権侵害を認めたからといって、この論文には少なくとも4点の研究不正があることが認められているという事実や、論文の方法ではSTAP細胞なるものを再現できないという事実を、覆すことができるわけではない。

 BPOは小保方氏の申し立てを7つの論点として整理しているが、そのすべてに人権侵害を認めたわけではない。また、9人の委員のうち2人による「少数意見」が掲載されている。勧告は本文49ページで、そのうち約10ページを少数意見が占めている。

拡大小保方氏による申し立ての論点とBPOの判断
 整理すると、右のようになる。

 つまりBPOが認めたことは、第一に、この番組は視聴者に対して、申立人=小保方晴子氏が若山照彦氏の研究室のES細胞を盗んだという印象を与えたことであり(論点4)、第二に、取材方法に問題があったことである(論点7)。

 この勧告で最も多くのページ数が割かれており、委員たちの間で激しく議論されたことがうかがえるのは、論点4「申立人が若山研究室のES細胞を盗んだという印象を与えるか」である。

 この論点は、この番組の「STAPは存在するのか」というパートで問題となる。BPOは、このパートでは以下のような事実が「摘示」されているとみなす(勧告12ページから整理)。

a) STAP細胞の正体はES細胞である可能性が高い。
b) 申立人の作製したSTAP細胞は、若山氏の解析及び遠藤〔高帆〕氏の解析によればアクロシンGFPマウスから作製されたES細胞である可能性がある。
c) STAP細胞は、若山研究室の元留学生が作製し、申立人の研究室で使われる冷凍庫に保管されていたES細胞に由来する可能性がある。
d) 申立人には元留学生作製のES細胞を何らかの不正行為により入手し、混入してSTAP細胞を作製した疑惑がある。

 しかし、このうちc)とd)を裏付ける根拠が十分に示されておらず、したがって「名誉毀損の人権侵害が認められる」とBPOは結論づけている。

不十分なナレーション

 これに対して、少数意見の委員2人のうち奥武則委員は、このパートはそもそもc)とd)という事実を「摘示」してはいないこと、理研がSTAP細胞とES細胞との関係の解明に積極的ではなかったことなどを指摘する。もう1人の市川正司委員は、a)からd)までの一部には「相当性」(真実と信じる相当の理由)があること、小保方氏が十分な説明をしていなかったことなどを指摘する。2人はこれらを理由に、少数意見として論点4については名誉毀損ではないとする。

 筆者もこの番組を、とくに「STAPは存在するのか」というパートを何度も見直してみたところ、ある部分が気になった。 ・・・続きを読む
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筆者

粥川準二

粥川準二(かゆかわ・じゅんじ) サイエンスライター

1969年生まれ、愛知県出身。国士舘大学、明治学院大学、日本大学非常勤講師。「ジャーナリスト」や「社会学者」と呼ばれることも。著書『バイオ化する社会』(青土社)など。共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、山口剛ほか訳、早川書房)など。監修書『曝された生 チェルノブイリ後の生物学的市民』(アドリアナ・ペトリーナ著、森本麻衣子ほか訳、人文書院)。

 

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