福島原発事故から6年が示すこと
2017年03月11日
福島原発事故から6年がたち、原発事故に伴う諸困難と経済的負担が一層明らかになってきた。そこで、これまでの経過と対応を振り返り、今後の見通しを立てる必要がある。そのために、(1)福島原発事故による費用の発生、(2)その費用の負担転嫁のメカニズム、(3)原発再稼働に向けた規制基準の強化、避難計画、(4)今後の見通し、原発ビジネスの展望、の4つについて、分析することにしたい。最後に、原発コスト論の意義と限度についても触れたい。
福島原発事故の処理費用について、2016年12月、経済産業省は21・5兆円という新たな推定を公表した。内訳は、廃炉8兆円(2013年推定は2兆円)、賠償7.9兆円(同5.4兆円)、除染4兆円(同2.5兆円)、中間貯蔵1.6兆円(同1.1兆円)である。
福島原発事故は、公害発生の典型例であり、「想定外」として地震・津波対策を節約した結果発生したものである。しかし、従来の公害問題との違いは、長期にわたる避難者がいまだ10万人近くに上ることであり、日本の公害問題の歴史においても例を見ない規模と事例である(足尾鉱毒事件による谷中村の事例をはるかに超える規模)。
拡散した放射性物質の範囲も広大であり、除染の規模と作業も膨大である。発生源である原子炉の廃炉の見通しも立っていない。
「除染」「中間貯蔵」 除染(4兆円)と中間貯蔵(1.6兆円)については、その範囲と方法をめぐり、未解決な問題が多いにもかかわらず、除染範囲の「すそ切り」が行われている一方、「帰還困難地域」の除染に国費を充てることも決められた(2016年12月末、閣議決定)。環境省は2016年、放射性物質のセシウムの濃度が1kg当たり8000ベクレル以下の除染土を全国の公共事業で使用することを決めている(除本理史「除染に国費投入 曖昧なままの国の責任 国民に負担転嫁へ」『エコノミスト』2017年2月7日号)。
「賠償」 賠償(7.9兆円)に関しては、「帰還困難地域」を除く「避難指示解除準備区域」と「居住制限区域」の解除と、解除後1年で避難者への賠償金支払いの打ち切りが目指され、また自主避難者への賠償、みなし仮設住宅問題など未解決な問題が山積している。
「廃炉・汚染水」 廃炉・汚染水(8兆円)は、炉心溶融炉の内部状況把握が遅れ、廃炉作業そのものが40年以上かかるとみられる。地下水の流入対策や放射性廃棄物の処理問題などが残されている。
今回の原発事故により発生した膨大な費用に対して公害の典型事例である水俣病の場合と同じように、被害者を救済する前に、加害者を先に救済しなければならなくなった。そこで政府は、水俣病問題におけるチッソの救済・支援のスキームを詳細に検討したといわれる。
東京電力の法的整理・破産処理を避けるために、損失を被ることになる銀行団や株主・証券会社などが政府と東京電力と組んで特別のスキームが作り出された。それは「原子力賠償支援機構法」(2011年)であり、その後「原子力損害賠償廃炉等支援機構法」(2014年改正)となった。2016年12月現在で東京電力に対して6兆8180億円が交付されている。
とくに賠償費用については、今回、賠償費用7.9兆円のうち2.4兆円を託送料(送電費用)に上乗せすること回収することを計画している(標準家庭で月18円)。これは「新電力」についても負担させるかわりに、「安い」卸売り電力を「新電力」にも配分させるという「取引」も行われるという。
「託送料への上乗せ」は、2005年に使用済み核燃料の再処理費用で実施された前例がある。だが、発電会社とは別の会社である送電会社が負担するのは筋が通らないと批判されている(河野太郎「福島事故処理に託送料充てる愚」『エコノミスト』2017年2月7日)。託送料は国会の議決も経ない。また、原発を稼働させれば電力料金が下がるというなら、賠償費用を他から負担してもらうのはおかしいということになる。
今後、賠償費用の増加が見通されるなかで、託送料の自動的引上げにより、電気代が値上がりすることが十分予想され、「電気代が税金」となった(『エコノミスト』2月7日号のタイトル)と批判されるゆえんである。斎藤誠『震災復興の政治経済学:津波被災と原発危機の分離と交錯』(日本評論社、2015年)が指摘するように、震災復興という名目で巨大な防潮堤や高台整備などに32兆円が使われる(『朝日新聞』2017年2月11日)一方で、福島原発事故関係の経費の過少評価が行われているのである。
以上のように、「除染」「中間貯蔵」「賠償」「廃炉・汚染水」それぞれについて、国税分の投入と電力代金への負担転嫁による費用捻出のメカニズムがつくられようとしているが、そのメカニズムが明らかでない部分も多い。透明性の確保が求められるゆえんである。
原子力規制委員会は、
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