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廃炉措置機関の創設で国が責任を持つ体制に変えよ

福島事故6年目、ガバナンスの根本改革にとりかかるときだ

鈴木達治郎 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授

 3月11日が再びやってくる。1年前、このWEBRONZAの欄で、筆者は次のような提言をした。「1.廃炉措置における透明性の向上と長期的な体制の確立、2.復興・避難解除への住民参加意思決定プロセスの導入、3.科学的情報の信頼性向上と心のケアを含めた被災者の健康福祉対策の強化、の3点について、政府の真剣な取り組みを強く要望したい」(「福島事故は終わっていない:政府が取り組むべき3つの課題」)。この提言は、残念ながら、あまり取り入れられていない。しかし、6年目を迎える今こそ福島事故対応のガバナンスを変えるべき時期だと痛感している。新たな段階に入りつつある「廃炉」「資金負担」「避難解除」の3つの課題について、現状分析とガバナンス改革の必要性を訴えたい。

廃炉は新たな段階へ、総合的なリスク低減を目指せ

 2017年2月に2号機の格納容器内に調査用ロボットが入り、毎時650SV(シーベルト)という高い放射線量が話題となった。カメラの耐放射線能力を強化する必要があることも明らかになったが、一方でデブリ(溶融した核燃料の堆積物)の存在と場所、周辺の状況が少しでも確認されたことは重要な一歩であった。

 今回の報道を機に、デブリの取り出し可能性について疑問を投げかける声が増え始めた。チェルノブイリのように「石棺」の可能性も追求すべきだ、という意見だ。確かに、デブリを全量無事に取り出せるかどうかはわからない。しかし、現状のまま地上で管理することも長期的にはリスクが大きいのも事実だ。安全に取り出せるのであれば、それに越したことはない。要は、「取り出すべきか否か」を今議論するよりも、短期・中期・長期のリスクを総合的に判断して、最もリスクを低減できる可能性が高い作業をすすめることだ。

 2016年7月に公表された、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)による「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略プラン2016」(概要版)は、廃炉の技術的課題を進捗状況に応じて列挙し、今後に向けた技術面での支援・提言をまとめたものであり、リスクを考えるうえでも非常に参考になる。

分類I=可及的速やかに対処すべきリスク源(短期的対応)、分類II=周到な準備と技術によって安全・確実・慎重に対処し、より安定な状態に持ち込むべきリスク源(中期的対応)、分類III=良い安定な状態に向けて措置すべきリスク源(長期的安定)
 右図は、プランの中の「リスク低減戦略」に示されているリスク分析マップである。燃料デブリは分類IIで,現時点で石棺の可能性を全く否定することもできないが、一部でも取り出すことができるのであれば、その可能性を追求することもあきらめてはいけないだろう。

 このような総合的なリスク低減の考え方を、よりわかりやすく国民、特に地元周辺の住民(避難民)に説明する責任が政府や東電にはあると思う。汚染水のリスクについても同様だ。トリチウムを含んではいるが、リスクが許容範囲にある汚染水は、地上で長期に貯蔵しておくよりも、規制値以下であることを確認しつつ海水に放出するほうがリスクは少ないだろう。ただ、漁業者が不安なのも当然だ。海水への放出が非科学的な風評被害につながらないよう、透明性をもった説明、情報提供が求められる。

資金負担を決めるプロセスが不透明過ぎる

 2016年12月に東京電力改革・1F委員会が発表した「東電改革提言」で特に注目されたのが、事故対応コストが従来の約2倍にあたる22兆円と見積もられたことだ。その内訳をみると、デブリ対策が予想以上に困難と分かって廃炉コストが2兆円から8兆円に跳ね上がり、賠償費用が5兆円から8兆円、そして除染費用が4兆円から6兆円に増額された。提言に基づき、政府は国民負担分として2.4兆円を電気料金に上乗せして回収する方針を16年12月に閣議決定した。16兆円分は東京電力の収益と株式売却益で捻出し、除染は2兆円分を国費で負担、残りを他の電力会社、小売自由化後に参入した新電力が負担する仕組みだ。

 ここで問題となるのは、まず第一にこの見積もりの根拠と、さらに膨れ上がるかもしれない可能性である。日本経済研究センターの見積もりでは、汚染水からトリチウムを除去する費用も含めると、福島廃炉措置だけで32兆円にまで達する。また除染からの廃棄物処理・処分費を六ヶ所低レベル廃棄物処分費用から推定すると、除染費用も30兆円に拡大するとみられ、総計は45兆円〜70兆円にまで拡大する(下の表)。この数値には当然のことながら不確実性があるが、現在政府と東電が発表している数値の根拠も弱い。

日本経済研究センター「事故処理費用は50兆円になる恐れ-負担増なら東電の法的整理の検討を-」(2017年3月10日)から。試算1は廃炉・汚染水処理にトリチウム水の処理費(2000万円/㌧)を含む。試算2は、100万トン以上のトリチウム水は希釈して海洋へ放出し、風評被害の40年分補償費3000億円を計上。

 次に、その負担の在り方である。東電の負担額は、株の売却と収益で資金を確保するとなっているが、自由化市場で厳しい競争にさらされる中、はたして計画通りの収益と株価を確保できるのか。もし、東電が負担できなかった時、電気料金と税金の負担額(すなわち消費者と国民)の負担が増えてしまう可能性が残されたままである。

 ここで強調したいのは、福島事故コストの算定とそのコスト負担を決めたプロセスが、極めて不透明である点だ。国民への負担を政府として決定するのであれば、説明責任を果たす必要がある。このような重要な意思決定が、当事者である東電の改革委員会の提言にのみ基づいてされるところが、現在の福島事故対応のガバナンスに大きな問題があることの証左である。

避難解除の進め方について世論は二分

 2017年4月1日に富岡町の避難区域が解除される見通しであり、そうなると、帰還困難区域を除いた避難区域のほとんどで避難解除となる見通しとなった。昨年も記述したが、除染効果と自然減衰の効果により、放射線レベルはすでにかなり低減・安定化しており、避難解除の判断につながったものと考えられる。

福島第一原発2号機の格納容器内を調査したロボット「サソリ」=国際廃炉研究開発機構提供
 しかし、避難区域の解除基準である年間20mSVは、3・11前の平常被ばく線量規制値(年間1mSV)と比べてかなり高く、住民の不安は消えていない。また、たとえ被ばくによるリスクが十分低くなったとしても、帰還への条件整備は不十分である。医療・教育・商業等の社会インフラがまだ整備不十分だからだ。

 最新の朝日新聞による世論調査によると、避難解除時期が「妥当だ」という意見(40%)と「解除すべきでない」(22%)「早すぎる」(19%)を合わせると「解除反対」が41%と、意見がほぼ二分されている。一方で「遅すぎる」(9%)という意見もあり、住民の中にもいろんな意見があることがわかる(朝日新聞「避難指示解除、割れる評価 福島県民世論調査」2017年3月3日)。

いまこそガバナンス改革を

 以上の3つの新たな段階に入った状況を踏まえ、これを機に福島事故対応のガバナンス改革を検討する時期だと考える。昨年は、透明性を通じた信頼の確保を強調したが、今年度はより具体的な改革案として、筆者は以下の3つの機関の設置を提案したい。

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