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データ改ざんはあったが無罪

ノバルティス薬事法違反事件 東京地裁判決を読み解く

浅井文和 医学文筆家

 高血圧治療薬の臨床研究をめぐる注目の判決は「無罪」だった。

 スイスに本拠を置く製薬大手ノバルティスの高血圧治療薬「ディオバン」に関する論文の虚偽記述・広告を問われた薬事法(現・医薬品医療機器法)違反事件で、東京地裁は3月16日、同社日本法人と元社員の白橋伸雄被告に無罪判決を言い渡した。検察側は元社員に懲役2年6カ月、法人に罰金400万円を求刑していた。

法で裁くのは難しいが、真相解明は前進

 判決は元社員が研究データに「意図的な改ざん」をしたことは認めたが無罪とした。これには、「えっ、なぜ?」と戸惑う人も多いだろう。

拡大不正事件の舞台となった京都府立医科大
 事件の発端は、京都府立医科大学の研究グループが実施したディオバンの効果を調べた臨床研究論文で「データ操作」が判明したことだった。2009年に発表された論文はディオバンを飲んだ患者は、他の高血圧治療薬を使った患者に比べて脳卒中や狭心症などのリスクが大きく下がったとする結論だった。ディオバンに有利なように、脳卒中などを起こした患者数が操作されていた。

 厚生労働省は2014年1月、薬事法違反(虚偽・誇大広告)の疑いで東京地検に刑事告発した。東京地検特捜部が捜査を進め、統計解析を担当していた元社員と法人を起訴し、2015年12月の初公判から1年あまり、東京地裁で裁判が続いていた。

 私は判決公判を傍聴したが、辻川靖夫裁判長は元社員の供述内容について「信用できない」と繰り返した。元社員のデータ解析業務については大筋で検察側の主張を認め、元社員がデータに意図的な改ざんを加え、図表などを大学の研究者らに提供したと認定した。改ざんデータにもとづく論文を研究者が学術雑誌に投稿し、論文はオンライン掲載された。

拡大論文作成の流れと裁判所の判断

 しかし、薬事法の解釈のところで、検察側の主張が認められなかった。検察側は論文が「医薬品の効能又は効果に関する虚偽の記述に該当する」として、薬事法違反を主張した。しかし、判決では、論文は薬事法が規制する「虚偽又は誇大な広告」に当たらないとして、無罪とした。法で規制される広告は「医薬品等について購入意欲を喚起・昂進させる手段」であることが必要と解釈し、学術論文の投稿は「金銭的な費用を負担することによって情報提供の具体的内容を決め得る」ものではなく、「購入意欲を喚起・昂進させる手段」としての性格をもっているとはいい難いとして、罪とならないとした。

 初公判から判決まで、裁判の傍聴を続けてきた循環器内科医の桑島巌・臨床研究適正評価教育機構理事長は ・・・続きを読む
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筆者

浅井文和

浅井文和(あさい・ふみかず) 医学文筆家

元朝日新聞編集委員。1983年に朝日新聞入社。1990年から科学記者として医学、医療、バイオテクノロジー、医薬品・医療機器開発、科学技術政策などを担当。2017年1月退社。連載記事「患者を生きる」「がん新時代」「認知症とわたしたち」などに参画。

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