大量輸入・消費国である日本の「奇妙な状況」は解決できるのか
2017年03月22日
遺伝子組み換え(GM)作物を使った食品の表示方法が現状でいいかどうか、4月から新たな議論が始まる。消費者庁が食品業界や消費者団体、有識者らで構成する検討会を設け、表示義務の範囲を見直しについて話し合う。
日本は世界から大量のGM作物を輸入し、食用油の原料や家畜の飼料として利用している。一方、国内でのGM作物の商業栽培については、強い反対運動の影響で一切行われていない。そして多くの消費者は、日本がGM作物の大量輸入・消費国である事実をほとんど知らない。その原因の一つは表示制度にある。この奇妙な状況の解決と、GM作物を栽培したいという農家の選択の権利についての議論をしてほしいと思う。
もちろん、「安全でも食べたくない」という人たちの選択の権利を守る表示について冷静に検討を進めるのがメインになるだろう。その際、科学的にすでに決着している安全性や環境影響の議論を蒸し返すべきではない。
GM作物の商業栽培が始まってから20年。その栽培面積は年々増え続けて、2014年には世界で栽培される大豆の79%、綿の70%、とうもろこしの32%、ナタネの24%がGM品種になっている。これほど短期間に世界に広がった理由は、GM作物が農家にとってメリットがあるだけでなく、消費者もそれを受け入れているからである。
消費者にとってはGM作物の安全性が気になるところだが、これに関する誤解は根深い。そのきっかけの一つは、2000年に家畜飼料用のGMとうもろこし「スターリンク」がメキシコ料理に混入し、これを食べた人がアレルギー症状を起こしたとして訴えた事件だった。食用として認可を得ていなかったスターリンクが流通ルートに混入したことは大きな問題だ。だが、アレルギーを訴えた患者を米国健康福祉省が調べたところ、スターリンクに由来するタンパク質は、症状とは関連がないことが分かった。環境保護局も調査し、「スターリンクとアレルギー症状は無関係」と結論づけている。
GM作物の安全性は、すでに確立している。多くの研究結果と20年間の世界各地での栽培経験は、現在普及しているGM作物は人体にも環境にも何の問題もないことを証明した。だからこそ世界各地の農家がGM作物を栽培し、食料の安定供給と価格の安定が図られている。
日本の表示制度はどうなっているだろうか。
これから始まる検討のポイントの一つは意図しない混入をどこまで認めるかだ。日本では5%までだが韓国は3%、EUは0.9%まで。だから日本では「遺伝子組換えではない」加工食品が韓国やEUでは「遺伝子組換え」になる可能性がある。
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