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トランプ大統領は地球環境を危機に追い込む

最大の利益者である米国がグローバリズムに敵対する矛盾

西村六善 日本国際問題研究所客員研究員

 トランプ大統領は、3月16日に連邦予算案、28日にエネルギーに関する大統領命令を発表した。

ホワイトハウスで会見するトランプ米大統領=2017年4月、ワシントン、ランハム裕子撮影拡大ホワイトハウスで会見するトランプ米大統領=2017年4月、ワシントン、ランハム裕子撮影
一言でいえば温暖化問題を徹底して否定し、オバマ前大統領の政策を全部瓦解(がかい)させるものだ。命令は「アメリカのエネルギー自給と経済成長」という表題だが、文中に「温暖化」とか「気候変動」という用語は使われていない。

 連邦予算では、国防費を大幅に増やす一方、環境保護庁、国務省、エネルギー省、労働省などの予算を大幅に削減した。温暖化防止、外交活動、国連への拠出金、海外援助、低所得層向け支援、保健福祉などを大幅に減らすものだ。

 特に、環境保護庁の予算は最大の削減を受け、一挙に3分の1になった。 クリーンエネルギーへの転換事業は廃止だ。温暖化の科学的分析や調査の予算も、廃止か減額だ。同庁の科学者の半分は失職する。 温暖化の科学への打撃だ。

 大統領命令では、化石燃料の増産を妨げる環境規制を大幅に撤廃し、石炭、石油、天然ガス産業の活性化で雇用を増やすとしている。もちろんオバマ政権の看板政策であった「クリーンパワー計画」の解体作業が行われる。

 温暖化防止の国際協力にも深刻なブレーキがかかる。パリ協定で出来た「グリーン気候基金」への拠出はしないという。途上国の低炭素化を促す世銀の事業への拠出も止める。途上国のエネルギー転換で重要な役割を果たしてきた「グローバル気候変動イニシアチブ」(国務省予算)も廃止だ。

 今回発表されたのは「予算のブループリント」なので、今後議会が変更を加える。しかし、一言でいえば、オバマ前大統領の環境政策を全面的に根絶しようとしている。パリ協定を契機に世界中が開始したエネルギー転換を、国内的にはサボタージュし、国際的にも大きなブレーキをかけようとするものだ。

矛盾だらけのトランプ政策

 しかし、石炭を量産して雇用と成長を実現するという構想ぐらい、現実離れした発想はない。石炭は再生可能エネルギーと天然ガスとの価格競争に負け、市場で退却を迫られているのだ。世界最大の石炭企業のピーボディ―社は倒産した。それに次ぐ大手のマレー社のマレー社長自身が、「石炭産業で雇用が戻ることなどあり得ない」と言明している。

 それに現在、アメリカの石炭産業の雇用数はわずか7万人だ。一方、再エネ産業は300万人。しかも急増中だ。今回の大統領命令の表題である「アメリカのエネルギー自給と経済成長」を追求するなら、クリーンエネルギーこそ注力すべき分野だ。こちらの方が雇用拡大の可能性は膨大で、給与水準も高く、技術革新の可能性に富む。クリーンエネルギー技術は、アメリカの重要な輸出アイテムになれる。 衰亡に向かう石炭などに心血を注ぐのは大きな時代錯誤だ。

 トランプ氏は、温暖化が人間の行動に由来していることを半分認めるような発言をしたことがある。しかし今回の予算や命令を見る限り、温暖化の問題を真剣に考えた形跡はない。彼を取り巻く保守勢力の温暖化否定論の渦に完全に飲み込まれている。

 その典型の一つが「CO₂排出の社会的費用」という概念を否定する決定だ。

 これは、政府が予算計上等の際、この費用(現在は1トン当たりのCO2排出は36ドル)が社会的に掛かることを勘案して、当該企画の費用対効果を計算する仕組みだ。オバマ政権がアメリカ社会に及ぼすCO2排出の悪影響を算出したものだ。 これをトランプ大統領は、今回の命令で廃棄した。温暖化は社会に利益すらもたらすので、コストとして扱うべきではないというとんでもない保守派の思想だ。 ・・・続きを読む
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筆者

西村六善

西村六善(にしむら・むつよし) 日本国際問題研究所客員研究員

1940年札幌市生まれ。元外務省欧亜局長。99年の経済協力開発機構(OECD)大使時代より気候変動問題に関与、2005年気候変動担当大使、07年内閣官房参与(地球温暖化問題担当)などを歴任。一貫して国連気候変動交渉と地球環境問題に関係してきた。現在は日本国際問題研究所客員研究員。

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