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プログラミング教育「必修化」の期待と課題

スキル、思考力、世の仕組み、作る喜び…何を求めるか

首藤一幸

 「プログラミング言語の文法は教えません。自分で学んでください」。大学に入学したばかりの私達に向けて、プログラミング演習の担当教員はそう言いました。25年前のことです。

 プログラミング言語を教えないプログラミング演習。では大学は、その講義を通して何を教えてくれたのかというと、コンピュータ科学の基礎でした。

プログラミング教育ブーム

 プログラミング教育が大はやりです。幼稚園生から高校生までを対象とする民間のITものづくり教室「LITALICOワンダー」には、東京と神奈川の5教室に1500人もの生徒が通っているそうです。子供達が取り組むロボット制御やアプリ開発のためには、もちろん、プログラミングが必要です。

 世界のリーダー、バラク・オバマ、スティーブ・ジョブズ、マーク・ザッカーバーグらも、若者に対して、作る側にまわること、そのためにコンピュータ科学やプログラミングを学ぶことを勧めています。もっとも、彼らは事業家や政治家なので、自分達の事業領域や地域を産業的、経済的に強くしたいがための我田引水の発言でもあるのでしょう。とはいえ、現在、コンピュータ科学やプログラミングが何かを作って世に問う際の中心的な素養の1つであるということは疑いありません。

小学校での必修化

 2020年には、多くの子供が小学校でプログラミングをしているかもしれません。政府・首相官邸は2016年6月、「日本再興戦略2016」の中で、2020年度からの小学校でのプログラミング教育必修化をうたいました。文部科学省は、プログラミング教育についての有識者会議を開催し、2017年2月には小学校の学習指導要領案にプログラミングを盛り込みました。

拡大プログラムを描き変えて扇風機の動きを制御する子供達
 皆さん、プログラミング教育と聞くと、「え?プログラムを書くスキルを子供に仕込むの?」と反射的に誤解して、「将来役立ちそうでいいね!」と喜んだり、人によっては逆に「手先のスキルを仕込むようなことはしてくれるな!」と心配したりするのではないでしょうか。しかしこの点は心配ありません。文部科学省も、スキルを仕込むつもりはありませんから。学習指導要領案には、各教科の中で「プログラミングを体験しながら…論理的思考能力を身に付ける」とあります。

 先立つ有識者会議は「プログラミング教育とは…『プログラミング的思考』などを育むこと」とまとめていました。この「プログラミング的思考」とは、以前からある「計算論的思考」(Computational Thinking)という言葉をわざわざ言い換えたもののように見えます。政府としては、新しい言葉を発明する方がなにか都合がよかったのでしょうか。

プログラミングは最適な教育手段か?

 プログラミング教育の小学校での必修化には批判もあります。教育は誰にとっても身近なテーマなので、誰しも一家言を持っています。例えば「目標とする論理的・創造的な思考力を育むためにプログラミングは最適な手段なのか?」「他教科の授業時間を減らすに値するほどなのか?」と。

 この点、有識者会議の議論取りまとめや、また、特に学習指導要領案は、かなり無難な着地点を見出しています。つまり、 ・・・続きを読む
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筆者

首藤一幸

首藤一幸(しゅどう・かずゆき) コンピュータ科学者、東京工業大学准教授

1973年神奈川県生まれ。2001年早稲田大学博士後期課程修了。博士(情報科学)。早稲田大学助手、産業技術総合研究所研究員、ウタゴエ(株)取締役最高技術責任者を経て、2008年12月より現職。つまり、私大、国の研究所、スタートアップを経て、国立大学。IPA未踏人材発掘・育成事業プロジェクトマネージャを兼任。 魔法のようなソフトウェア、分散システムが好き。

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