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文科省の大量違法天下りはなぜ起きた?

迷走した公務員制度改革と、政による官人事支配の是非

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

 文部科学省で違法な天下りが62件発覚するという前代未聞の醜態に続き、東日本大震災の復旧事業に関連して農林水産省OBによる談合の疑いが出て公正取引委員会がゼネコン18社に検査に入る事態が起きた。いつまで経ってもなくならない天下り。その本質は「天下り=悪」とだけ考えていたのでは理解できない。人事制度としての側面もあるからだ。「けしからん」という主張は国民の共感を呼ぶ。その共感を背景にここ10年、国家公務員制度改革が進められた。文科省は法律が変わったのに同じことをやり続け、関係者が処分を受けた。そこに弁解の余地はないが、この間の制度改革で一番変わったのは政治による官僚支配が進んだことだ。それが果たして日本にとって良かったのかは改めて考えなければいけないと感じる。

天下り問題の調査結果を受けて記者会見する松野博一文科相=30日、飯塚晋一撮影

 多少とも天下りの実情を知る人たちにとって文科省の件がよくわからないのは、この8年ほどで「なぜ62件も」ではなく、「なぜ62件だけ」違法認定されたのか、だろう。天下りの定義は常に問題になるが、国家公務員が役所以外の組織のポストに就くことを天下りと呼べば、この間の件数はもっと多い。

 では、違法かどうか分けたのは何だったのか。それは、2007年に改正された国家公務員法の規定に違反しているかどうか、である。

 そもそも戦後間もなく国家公務員法が制定されたときから、天下りは「やってはいけないこと」だった。1948年の国会で、法制局部長は立法の狙いをこう答弁している。「在職中の職務上の権限と申しまするか、権力とか、そういうことを利用して職務上密接な関係にある会社との関係を深くいたしまして、そうして退職後そこに入っていくということを拒否して官紀の粛正を維持するという趣旨でございます」

 公務員は「全体の奉仕者」として「公正無私」でなければならない。地位を利用して自分がトクしてはならず(だから収賄もダメ)、地位を利用した政治活動も御法度である。国家公務員法での天下りに関するルールは「離職後2年間は、離職前5年間に在職していた機関と密接な関係にある営利企業に就職してはならない。違反すると1年以下の懲役または50万円以下の罰金」となった。

 その結果生じたのは、ルールに抵触しない「天下り」の横行である。幹部ポストにつけない人は定年前に去ることで省の活力が維持されるとされ、「天下り先のポストは府省庁の人事システムに完全に組み込まれ、天下りのあっせんは人事の一環の中で行われ、あっせんを受けた公務員にとって天下りは転勤のようなもの」(行政学者の分析)という実態ができあがった。

 ここに「逆転の発想」で切り込んだのが、「官から民へ」をキャッチフレーズにした小泉内閣だ。官僚ももっと自由に民間企業に転職すればいいと言い出し、この考えにのっとって2007年改正法が生まれた。離職後2年間は不可という規制はとっぱらわれた一方、

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