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自然保護と日本の国益

「保護」と「保全」の違いにどう向き合うか

松田裕之 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

 生物の多様性を包括的に保全する国際的な枠組みとして1993年に発効した生物多様性条約(CBD)は、国連教育科学文化機構(ユネスコ)が1970年代に始めた「人間と生物圏(MAB)」計画と発想を同じくしている。MAB計画では、下図のように野生生物を手つかずのまま瓶の中で保存するのでなく、人が暮らす中で保全することを目指している。

拡大ユネスコ「人間と生物圏(MAB)」計画で用いられる概念図

 条約で使われる「生態系サービス」という言葉は「自然の恵み」と言い換えてもよいが、衣食住などの素材となる生物資源だけでなく、森林の洪水調節機能や観光資源などによる恵みも含まれる。人間活動によって生物多様性が損なわれると生態系サービスが損なわれ、ひいては人間の幸福(Well-being)が損なわれるというのが条約の論理だ。これを保護(Protection)に対して保全(Conservation)という。

 2010年に日本で生物多様性条約締約国会議(COP10)が開催され、愛知目標と名古屋議定書が採択されたとき、MABと似た考えをSATOYAMAイニシアチブと名付けた決議を採択した。人と自然の「共生」は西洋にない思想と言われるが、MAB計画には似た理念が既にあったのである。

 名古屋発でSATOYAMAという言葉が世界に広まったのだろうか。残念ながらそうなっていないことを私は先月ボンで開かれた「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES=イプベス)」で知った。日本政府代表団として参加した今回の経験を中心に、生物多様性を守る国際交渉の現実を紹介したい。

拡大IPBES第5回総会で発言する日本政府代表団の環境省担当者と武内和彦氏(スクリーン前列左から)=2017年3月8日、筆者撮影

 IPBESは2012年に設立された生物多様性と生態系サービスに関する動向を科学的に評価する政府間組織である。今後の持続的利用の評価の枠組み(Scoping)が議論され、その評価対象が野生動植物となった 。この合意文書には「SATOYAMA」という単語自体が入っていなかった。

 IPBES総会は政府代表団どうしが議論する場であり、科学者が個人見解を述べるべき場ではない。しかし、情けない限りだが、私は ・・・続きを読む
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筆者

松田裕之

松田裕之(まつだ・ひろゆき) 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

京都大学理学部および同大学院博士課程卒業(理学博士)、日本医科大学助手、水産庁中央水産研究所主任研究官、九州大学理学部助教授、東京大学海洋研究所助教授を経て 2003年より現職。GCOE「アジア視点の国際生態リスクマネジメント」リーダー(2007-2012)、日本生態学会元会長、日本海洋政策学会理事、個体群生態学会副会長。ヨコハマ海洋みらい都市研究会共同代表。

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