メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

仮想通貨はなぜ、世界に600種類もあるのか

つまり、そのうちのいくつかは「怪しい」から、なので.....

伊藤隆太郎 朝日新聞記者(科学医療部)

 三菱東京UFJ銀行が、最新技術を応用した海外送金サービスを来年から始める。活用するのは、ビットコインなどの仮想通貨が基盤としている「ブロックチェーン」という技術だ。

 ビットコインは仮想通貨の代表格。規模も最大で、流通量は時価総額で2兆円を超えている。そして仮想通貨はビットコインのほかにもたくさんあり、その数はいまや世界中で600以上だ。金融機関やシステム会社などの企業は、拡大する仮想通貨を支えるブロックチェーン技術に関心を寄せ、大学なども研究対象とするまでになった。

 ところで、なぜ仮想通貨は600種類もあるのか。

 この設問を考えることは、「テクノロジー教育は必要か」「プログラミング学習は役立つか」といった命題にもつながりそうだ。なぜなら、仮想通貨が600以上もある理由は、コンピューター技術に関するいくらかの関心や知識があればごく自然と理解でき、その問題点までおのずと見えてくるのだから。

 ということで、ブロックチェーンの理解を通じて、仮想通貨が膨張する背景をつかみ、ひいてはテクノロジーと社会の関係を見ていこう。

あの有名大学もだまされたの?

 まず先に、「なぜ仮想通貨は600種類もあるのか」の答えを書いてしまいたい。それは「怪しい仮想通貨が、いくつもあるから」だ。

 仮想通貨は、誰でも新しいものをつくって、流通させることができる。だから、どんどん増えていくし、その中には不誠実なものや悪意のものも混じってくる。そしてやっかいなのは、「では、どの仮想通貨が怪しいか」を、簡単には見分けられないことだろう。

拡大ビットコインの取引所「マウント・ゴックス」の破綻事件は大きな社会問題になった

 これはそんなに大げさな問題でもない。ブロックチェーン技術を理解している人なら、「まあ、そりゃそうだよね」と、軽く受け流している程度のことだ。いわばテクノロジーが抱える必然のようなもの。だからこそ、「プログラミング学習」を議論する素材になると感じる。

 ちなみに最近、ブロックチェーン技術者が集まると、しばしば「あのケースは、まずいんじゃない?」と盛り上がる話題がある。ある有名国立大の共同研究のことだ。ブロックチェーン関連技術を提供する新興の海外エンジニアリング会社といっしょに、これから共同研究を始めるのだが、その会社がまさに「怪しい」と話題なのだ。

 どういうこと? 読み解くために、土台となるブロックチェーン技術を概観してみよう。

ビットコインの正体は、長いデータの鎖

 そもそもビットコインの正体とは何か。それは、たくさんのブロックがつながったデータの鎖だ。過去の取引がすべて記録されている、いわば取引台帳だ。「AさんがBさんに、1BTC(ビットコインの単位)を送った」という全記録が入っている。

拡大ビットコインを支えるブロックチェーン技術のしくみ(朝日新聞土曜別刷り「be」から)

 取引台帳は、ビットコインを使用する人たちのそれぞれのパソコンに蓄積される。つまり世界中のパソコンに、まったく同じデータが分散して保存されている。AさんがBさんに1BTCを送ったら、その記録はAさんとBさんだけでなく、利用者全員に送信される。そして、生成される取引記録の正しさを、利用者が全員で検証しあっている。

 この検証作業に、「ハッシュ値」という特殊な数字が利用されている。1個のブロックには数百〜数千の取引が記録され、一定の大きさになると次のブロックに進む。この時、取引記録は「ハッシュ値」という64桁の意味不明な16進数の値に変換される。どんなに大きな取引記録でも、たった64桁に圧縮されるのだ。

 ハッシュ値には、おもしろい性格がある。「取引記録→ハッシュ値」は計算可能だが、逆の「ハッシュ値→取引記録」は、計算では求められない。もしハッシュ値からもとのデータを逆算したいなら、とにかく場当たり的にいろんなデータを入れてみて、偶然そのハッシュ値が出てくるまで待つしかない。

 この特性を利用して、ビットコインは強固で安定したシステムを築くことに成功した。おもしろいのは、まさにここから。「怪しさ」も、このあたりからチラチラと顔を出す。

仮想通貨には「先行者利益」がある

 なぜ、ビットコインに多くの人が夢中になったのか。それは、取引記録の正しさを利用者みんなで検証する際に、ハッシュ値に関する「ある計算競争」を設けて、どれだけ早く計算できたかを競い合い、勝者にビットコインを報酬として与えるという巧みなしかけを取り入れたからだ。

拡大計算競争に勝つには大量のコンピューターが必要だ。「採掘所」と呼ばれる施設が各地にある

 この報酬がもらえる計算競争は、ブロックが一つ増えるたびに実施される。つまり、取引記録が正しいかを検証する面倒な作業に、みんなで取り組むメリットをつくっている。勝者に与えられる報酬は現在、12.5BTC。ビットコインが始まった当初は50BTCだった。報酬は、ブロックチェーンが一定の長さになるたびに半減するというルールがある。2012年11月に最初の半減があって25BTCになり、その後、2016年7月の2度目の半減で現在の報酬額になった。

 意外かも知れないが、このときに競われる「ハッシュ値に関するある計算」は、 ・・・続きを読む
(残り:約2856文字/本文:約4917文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
デモクラシーやJournalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

伊藤隆太郎

伊藤隆太郎(いとう・りゅうたろう) 朝日新聞記者(科学医療部)

1964年、北九州市生まれ。1989年、朝日新聞社に入社。筑豊支局、西部社会部、AERA編集部などを経て、2016年から科学医療部。

伊藤隆太郎の新着記事

もっと見る