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大きく豊かな並木を育てたい

~街路樹のコンパクト化・スリム化がトレンドの時代でも~

米山正寛 森林文化協会事務局長補佐

 新緑の季節、各地の木々が枝葉を伸ばし始めている。大きく豊かな並木は美しい都市景観をつくる大きな要素となる。それとともに、人の心に潤いややすらぎを与える、日陰をつくって気温上昇を抑える、などの恩恵をもたらす。日々の仕事を通して緑の木々と向き合い、その多様な恩恵を感じている身の上だけに、本日の「みどりの日」に改めて緑あふれる並木とともに暮らしたいという思いは高まるばかりだ。

小型化が新たな動き

 ただ最近は、並木やそれを構成する街路樹に関して、“コンパクト化”とか“スリム化”というキーワードが目立つようになってきた。並木は、恩恵の一方で、落ち葉の掃除がたいへん、伸びた枝で信号や標識が見えない、といった苦情をも引き起こす存在でもある。万が一、老朽化した大木が倒れたり枝が落ちたりして死傷事故が起これば、管理責任を問われかねない。道路を管理する自治体や国土交通省の財政事情が厳しくなっていることもあり、管理コストの削減も求められる時代だ。そこで現れたのが、街路樹を強剪定して小さくしてしまうばかりでなく、小ぶりなあるいは枝が広がりにくいような木に植え替えていこうとする動きだ。

 これには①大きく育つ樹種をあまり大きく育たない樹種に置き換える、②枝を広げた樹形が一般的な樹種でも枝を広げない品種を使う、という二つの方向がある。

 名古屋市は2015年に「街路樹再生指針」を策定した。約10万4000本の街路樹を管理しているが、その一部は植栽から40年以上が経過している。戦後の高度経済成長期には、工場の排煙や自動車の排ガスによる大気汚染の緩和、住宅地や工業団地の開発に対する代償として、街路樹に成長の早い樹種が多く植栽された。だが、そうした樹種が大きく育った今、倒木や落枝、根上がりといった問題も生じて、事故の懸念も高まっている。対策のための手間と費用も増えつつあり、管理上の転換点を迎えているとの判断が策定につながった。そして、そこに掲げられた再生方針1は、大きくなり過ぎたり倒木の危険性が生じたりしている樹種を、比較的コンパクトな樹形に整えることができて美しい花を咲かせる樹種に植え替えるというもの。担当の同市緑地維持課によると、具体的には、戦後に植えられて大きくなったアオギリ、ナンキンハゼ、エンジュ、プラタナスなどを計画的に伐採し、その代わりにハナミズキやサルスベリ、コブシ、ヒトツバタゴなどの花木を植えるようにしている。植え替えの対象となった樹種にも目立たない花は咲いているのだが、きれいな花が咲いて季節感を演出してくれることは住民の理解を得る上で、大切な要素であるらしい。

広がらないケヤキ、小ぶりな樹形のサクラ

こんもりとしたケヤキ並木=前橋市拡大こんもりとしたケヤキ並木=前橋市
スリム化した品種「ムサシノケヤキ」=さいたま市拡大スリム化した品種「ムサシノケヤキ」=さいたま市

 大きく枝葉を広げて、ほうきのような樹形となる街路樹と言えば、まずケヤキが思い浮かぶ。仙台市の青葉通や前橋市の駅前通のように、緑のトンネルを形成するケヤキ並木が、代表的な景観となっている都市もある。このケヤキで注目されているのが枝を広げずに直立する品種で、①道路標識や信号、電線の障害になりにくい、②限られたスペースを有効に利用できる、③剪定の省力化など管理費の軽減が図れる、といった理由で普及している。埼玉県花と緑の振興センターが発見し増殖したムサシノケヤキは、同県内の国道や市道をはじめ、各地で植えられている。

たまプラーザ駅前のサクラ並木は、ソメイヨシノの一部がコンパクトな品種に置き換えられる=横浜市拡大たまプラーザ駅前のサクラ並木は、ソメイヨシノの一部がコンパクトな品種に置き換えられる=横浜市
 また、横浜市では東急電鉄・たまプラーザ駅前でサクラ並木の再整備を進めており、大きくなった190本のソメイヨシノの一部をもっとスリムな樹形の品種に植え替え始めている。担当する青葉土木事務所の説明では、広い道路に沿って育てる樹種はソメイヨシノのままとするが、狭い道路沿いや見通しをよくしたい場所には、ソメイヨシノよりは小ぶりでスリムな樹形を維持できるカンザンやアマノガワに植え替えていく。これによって樹形だけでなく、サクラの花を3月下旬頃のソメイヨシノから4月中~下旬頃のカンザンやアマノガワまで長く楽しめる効果も生まれる。

逆転の発想で守られた緑

 このように都市の並木に関わる問題を解決するため、コンパクト化やスリム化というトレンドが進むのは止められそうにない。だが、街路樹を大きくするという逆転の発想で、問題を解決した事例が高松市にあることを知った ・・・続きを読む
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筆者

米山正寛

米山正寛(よねやま・まさひろ) 森林文化協会事務局長補佐

公益財団法人・森林文化協会事務局長補佐(学術、出版)兼「グリーン・パワー」編集長。朝日新聞の科学記者を経て現職。とくに自然史科学と農林水産技術に関心を寄せ、取材活動を重ねてきた。森林文化協会は、「山と木と人の共生」を基本理念として1978年に設立された朝日新聞創刊100周年記念の財団。
森林文化協会公式サイト

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