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知性を磨いて、AIを使いこなせる人間になろう

多種多様な人と会い、関係を築ける人が、成長できる

古井貞煕 豊田工業大学シカゴ校 (TTIC) 学長

 ツイッターにおぼれているアメリカの大統領だけでなく、日本人の多くが、ネットでつながることに一生懸命になりすぎている。常に誰かとつながっていたい、常にメールをチェックしないと落ち着かないといった、いわゆるネット依存症で、膨大な時間とエネルギーが無駄に使われているのはもったいないが、それ以上に、それで、仲間になった気になったり、理解しあった気になったりしているところに、深刻な問題がある。ゲームでも、瞬発力だけが要求されて、考える力が求められない遊びに熱中し、ネットでも、即座に返事をして相手とつながることばかりに一生懸命になって、物事を考えなくなっているのではないか?

人生の意味は何か?

 「人類の未来―AI、経済、民主主義―」(NHK出版新書)という本の中で、二人の有識者が、次のように述べている。

 人間は本質的にとても社会的な動物で、身体が非常に大きな哺乳類でありながら群生するのは人間だけである。群生するから、これだけの生産をすることができる。人生の意味は、他の人達との関係にあり、他の人達との関係と、他の人達に何をしてあげられるかという感覚が、誰にとっても人生の意味になっている。他の人達との関係性とそれに付随する思いこそが大事である。
 ——マーティン・ウルフ(英フィナンシャル・タイムズ紙の経済論説主幹)
 人間は非常に社交的な動物で、お互いに助け合うことで善をなしている。これが善の定義で、利己的でない生き方を意味する。人間は本質的にそういう存在だから、利己的でない生き方をすることで、自分自身が幸せになることができる。
 ——フリーマン・ダイソン(米国プリンストン高等研究所教授)

 このような人間関係は、ネットでつながっているだけでも、ある程度は構築できるが、ネットだけでつながっている人間関係は、極めて脆い。実際に会って、深く議論することによって、初めて真の人間関係が構築でき、考え方や、考える力を学ぶことができる。

拡大スマートフォンを操作しながら歩く人たち
 今や、誰でもネットから膨大な知識を得ることができるが、知識をどう使うか、どうやって面白いことを見つけ出すかは、人と話をしなければなかなか身に着かないし、面白さがわからない。人は、お互いに経験を共有し、それに新たな価値を加えることによって、賢くなる。

 実際に会っていないとできないこと、入ってこない情報が沢山ある。「こんなすごい人がいる」「なんだ、自分と同じじゃないか」「大したことない」とか、これだけでも、成長になる。多種多様な人と会い、人間関係を築ける人が、成長できる。

多様な価値観を認める

 よい人間関係を作る基本は、それぞれの人が持っている多様な価値観を認めることである。先入観にとらわれず、勝手に決めつけたりせず、一つの見方で凝り固まらず、「逆さメガネ」(養老孟司)で見る視点を持つことが必要である。自分の話を聞いてほしくない人はいないから、聞き上手になることも大切である。相手の気持ちを推し量り、自分ならどう思うかを考えることが必要である。人は、相手によって、性格が変わる。

 「タイミング」、すなわち、適切な時に適切な場所にいて、適切な人と一緒にいることが、人生の成功のカギである。ノーベル賞の山中教授も、適切なタイミングで、日本を離れて米国の研究所で過ごしたことが転機になり、iPS細胞の研究につながったと述べている。

 自分にしかできないことは何か、自分だからこそできることは何かを常に考え、たとえ孤軍奮闘になっても、失敗しても、あきらめず、ことの本質を極めようとする姿勢が大切である。しかし、大きなことを成し遂げようと思ったら、一人ではできないので、人と交渉し、説得し、仲間を増やす能力を磨くことが必要になる。人の流動性が高く、仲間づくりが容易にできることが、アメリカにおける科学技術研究の成功を支えている。

ネット社会の危険性

 ネットでつながっている関係からは、何が真実なのか、本心なのか、何が本音なのかをつかむのは難しい。それを隠せるのがネットコミュニケーションということもできる。嘘の数が多すぎて手に負えないと思わせて目をくらませることは、広く行われている。それよりも危険なのは、 ・・・続きを読む
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筆者

古井貞煕

古井貞煕(ふるい・さだおき) 豊田工業大学シカゴ校 (TTIC) 学長

 豊田工業大学シカゴ校(Toyota Technological Institute at Chicago=TTIC) 学長。1968年東京大学卒。工学博士。NTT研究所を経て、1997年より東京工業大学大学院計算工学専攻教授。2011年同名誉教授。2013年より現職。音声認識、話者認識、音声知覚、音声合成などの研究に従事。科学技術庁長官賞、文部科学大臣表彰、NHK放送文化賞、大川賞受賞、紫綬褒章受章、文化功労者。種々の学会から功績賞、業績賞、論文賞、Fellowなど受賞。国内外の学会の会長、学会誌の編集長などを歴任。

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