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火星探査機を打ち上げるアラブ首長国連邦

大胆な国際協力で、最先端の科学を目指す

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 アラブ首長国連邦(UAE)の火星ミッション「EMM」の詳細が正式に発表された。建国50周年に当たる2021年の到着を目指す。そのための打ち上げを三菱重工業のH2Aロケットが受注したニュースが昨年3月に流れたので、記憶にある読者もいると思う。

アラブ首長国連邦が計画する火星探査機の予想図(EMM提供の画像をもとに編集部で作成)
 ニュースになった昨年春、このミッションに協力している米国の科学者に尋ねたところ、まだ探査機の内容が固まっておらず正式には発表できないとのことだった。2014年にチームの形成が始まったばかりだから当然とはいえよう。しかし、打ち上げまで4年しかないのにニュースもほとんどなかったことから、多くの科学者が半信半疑だったのではあるまいか。そういった疑念を払拭させたのが今年の学会での発表だった。私が聞いたのは、欧州地球科学会で、これは米国での火星会議での発表に続いて2回目のものである。なんでも、探査機の内容が図面を含めて固まって、3次元図面(図)も完成したので、世界に向けて積極的に発信することになったそうだ。

世界最先端の科学ミッション

 発表を聞いてまず驚いたのは、本格的な科学探査を目指して、今まで調べられなかった領域を米国の最新鋭機器で調べるということだ。2年前にインドが火星探査機MOMを打ち上げ火星軌道投入にも成功してデータを取得しているが、科学成果は「最先端」とは言いがたく、国際的な認知も薄い。純国産で火星ミッションを成功させた、という功績の大きさを考えれば、より大きな成果が望めそうな海外機器をあえて載せなかったのも宇宙新興国としては当然の判断だろう。

 だが、アラブ首長国連邦の火星ミッションEMMは異なる。米国の最新の火星探査機「MAVEN」(メイブン:2014年打ち上げ)がやりたくても出来なかった部分に焦点を当てて、MAVENよりも5年新しいデザインの観測装置で調べるという。まさに世界最先端をめざす科学ミッションだ。昨年ニュースを聞いて以来、「建国記念なら、どうせ火星に行って写真プラスアルファ程度ですませるのだろう」と勝手に思っていた私が恥ずかしい。考えてみれば、日本の火星探査機「のぞみ」だって、最終的に失敗はしたものの、EMM以上のレベルの世界最先端を目指していたのだから、純国産というくびきから外れた宇宙新興国が「せっかく火星まで行くのだから最先端科学を目指したい」と考えるのは当り前なのだ。

 本格的な科学ミッションが可能となる最大の理由は、アラブ首長国連邦が衛星制御とマネージメントに専念することで、鍵となる観測装置を海外に下請け契約で作ってもらう判断をしたためだ。これをパソコンメーカーの生産方式に例えるなら、部品を徹底的に外注して自社はアセンブル(組み立て)に徹するか、内製品や系列の純正部品に限定する国産主義をとるかの違いにあたる。前者の代表は、成長するアップル。後者は衰退した日本のパソコン産業だろう。重要なのは、全体のデザインだ。アップル製品は「Designed by Apple in California. Assembled in China」などと刻印している。どこで組み立てようとアップル製品はカリフォルニア発だ、とする誇らしげな宣言である。

 アラブ首長国連邦の宇宙開発は、このアップル型だ。自国の人工衛星をいくつか持っていているものの、衛星本体や観測装置制作の技術は発展途上で、全てを国産でまかなうレベルに達していない。そこで、

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