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深刻な米国のパリ協定離脱

多国間協定での環境保護の行き詰まり

竹内敬二 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

 「あの大統領なら言いかねない」と思ってはいたが、やはり驚いた。トランプ大統領の「パリ協定を離脱(脱退)する」のひとことで、世界が何年もかかってたどり着いた「すべての国が加盟する温暖化規制の枠組み」が吹っ飛んだ。

 ガラス細工のように積み重ねてきた多国間協定による地球環境保護が、京都議定書に続いてまたしても「アメリカ・ファースト主義」でつまずいた。世界は米国離脱のダメージを乗り越えることができるだろうか。約30年かけてつくってきた国際協調の強さが問われる事態だ。

「失望だが、前進しよう」

 「米国の決定に深い失望を表明する。パリ協定は21世紀の気候変動に対処するための共同枠組みとして、国際社会が達成した最も重要な成果の一つである」「(チリ外務省)

拡大トランプ大統領の演説要旨
 「我々自身や将来世代にとって、緑豊かで安全な惑星を確保するための全世界の流れの中で、米国のような有力なパートナーを失うことは残念である」(バングラデシュ外務省)

 トランプ大統領の離脱宣言に対して、世界中から失望と批判の声が寄せられている。先進国だけでなく、中国、インド、ブラジルなどの新興国、南米諸国、途上国など、南北の別を超えて批判コメントを出しているのが特徴だ。

 逆に「脱退の決定」を支持した国はない。ロシアのプーチン大統領は「トランプ大統領を非難しない」とする微妙な立場だ。米国内でも10州以上が批判している。国内の石炭産業界からは支持がよせられているが、トランプ政権は四面楚歌の状態といえる。そして、「米国の離脱を超えて前進しよう」というコメントも多い。

長い歴史をもつ多国間環境協定

 国際社会が怒るのも当然だ。せっかく長い時間をかけてつくりあげたものが、荒っぽい言葉とともに、壊された。トランプ大統領の演説は、パリ協定をきわめて否定的にとらえ、「温暖化対策は経済に悪影響を与える」「パリ協定は不公平だ」と批判している。

 この2点は「古い議論」である。近年、世界は、国連などの下でつくる多国間環境協定(国際環境条約)を使って地球規模の環境問題に取り組んできた。酸性雨、オゾン層破壊、砂漠化、生物多様性の破壊、そして地球温暖化などだ。なかでもオゾン層保護のモントリオール議定書、温暖化防止の京都議定書などはよく知られている。

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筆者

竹内敬二

竹内敬二(たけうち・けいじ) エネルギー戦略研究所シニアフェロー

エネルギー戦略研究所(株)シニアフェロー。元朝日新聞編集委員。科学部記者、ロンドン特派員、論説委員などを務め、環境・原子力・自然エネルギー政策、電力制度などを担当してきた。温暖化の国際交渉、チェルノブイリ原発事故、3・11などを継続的に取材。著書は、電力業界が日本社会を支配するような社会産業構造がなぜ生まれたのか、なぜ福島事故がおきたのかを描いた『電力の社会史 何が東京電力を生んだのか』(朝日選書、2013年)。

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