スウェーデンの素早い危機対応が、なぜ日本では出来ないのか
2017年06月29日
廃棄物最終処分場、通称「粗大・不燃ゴミ捨て場」は、産業廃棄物・一般廃棄物を問わず、ゴミ焼却炉や高圧送電線・発電所と並んで、誰もが必要を認めつつも自宅の近くへの設置には難色を示す「必要迷惑施設」の代表だ。東京23区のように最新鋭の焼却炉でリサイクル不可能なものを基本的に全て燃やして事実上完全に消毒しているならともかく、中小自治体の多くでは、これら廃棄物を可燃性のまま捨てて最終的に埋め立てるしかない。その結果、悪臭だけでなく、病原菌やハエ等の温床になるという衛生上の問題や、有毒成分が外に漏れないかという懸念も出る。それゆえに敷地の確保が難しく、それが現在の最終処分場の環境をさらに悪化させる悪循環を生んでいる。
そんな現状において、最終処分場がかかえる他のリスクを新たに指摘するのは気が進まないが、それをきちんと理解しないとゴミ汚染への総合的な対策は練られまい。今回、私の住む街(スウェーデン・キルナ市)の最終処分場で大火事があり、公共機関や商店が閉鎖するという体験をしたので、その体験から導きだせる教訓と対策を論じたい。
去る6月20日午後5時40頃、キルナ市の一般廃棄物最終処分場で火災が発生し、丸2日燃え続けてようやく鎮火した。近隣自治体からも消防車が集まり、消防ヘリコプターまで出動したが、気温5度の冷雨のしとしと降り続く「絶好の消火日和」にもかかわらず2日間火を止められず、有毒な煙に至ってはその後も半日以上、市街地に流れ込んだ。
場所は市街地の境界から1km強、中心街から3km離れた森の中で、周辺への延焼の可能性こそ初期消火で無くなったものの、火事で発生した有毒な煙が、季節外れの北風で市街地に流れ続けた。私の住むアパートにも風向きによってはたまに煙が襲ったが、ほとんどの煙は6000人が住む住宅地域に流れ続け、長期的な健康被害の可能性が取りざたされている。知り合いの話によると、駐車場から自宅までほんの1分歩いただけで髪の毛が悪臭まみれになったほどの煙だったそうだ。北風は(悪臭の出ない)冬に吹くもので、夏場は風向きが異なるので、この場所が最終処分場として選ばれたが、それが裏目に出たわけである。
この最終処分場には、キルナ市の焼却炉(旧式より高温だが最新鋭ほどではない)では有毒ガスなどの問題が出る消費材が集まっている。それが燃えるということは、有毒ガスが大量にでることを意味する。ゴミそのものが有害でなくとも有毒ガスを出すのである。しかも、火事の表面にいくら水をかけたところで、ゴミ層の厚みゆえに内部の火を簡単には消せず、鎮火まで長い時間がかかる。ゆえに、消防署が最も怖れるタイプの火事で、どこも防火対策は行なっているものの、それでも毎年のように火事はどこかで起こる。スウェーデンではマルメ市の最終処分場で昨年末に火事があったばかりだ。
同様の火災は、もちろん日本でも起こっている。最近だと5月28日に福岡県嘉麻市の産業廃棄物処理場で発生した。この火災は鎮火まで16日も要し、そのあいだ、高濃度の有毒物質が風に乗って流れ出つづけた。原発事故での放射能飛散とほとんど同じ状況だったといえよう。
しかし、可燃性ゴミ(有毒ガスの有無関係なしに)の全てが焼却処理を経ているわけではなく、ゴミ総量が多いことから、先の嘉麻市の産廃処理場火災のような事態になりうるのである。嘉麻市の場合、鎮火前から体調不良を訴える人が数百人にのぼっている。このように、ゴミ処分場での火災は誰もが被害者になりうる問題だ。それは大都会のように清掃工場が充実していない地域で深刻である。
埋め立ててしまえば、という考え方は通用しない。
有料会員の方はログインページに進み、デジタル版のIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞社の言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください