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国支援の「カカオで脳若返り」発表はどこが問題か

科学的根拠を軽んじる内閣府「大型研究プログラム」への違和感

杉本崇 朝日新聞科学医療部記者

 「高カカオチョコレートを継続的に食べると、大脳皮質の量を増加させ、学習機能を高める(脳の若返りの)可能性がある」。食品大手の明治が「内閣府ImPACT山川プログラム」との共同研究の成果として、こんな研究内容を1月18日に記者発表した。朝日新聞は5月12日、実験方法の問題点を指摘しつつ「裏付けが不十分」だと記事を書いた。取材の経緯や舞台裏を紹介しながら、記者としての思いを記したい。

 「○○を食べると体にいい」といった健康情報はインターネットや広告などにあふれている。しかし、たとえばダイエット効果をうたうのに、被験者が少ない上に食事や生活条件をそろえているかが分からないといった、根拠不十分なものが少なくない。

 今回のチョコの効果をめぐる発表も、内容を裏付ける科学的なデータが不十分なものの一つだった。それなのに内閣府のお墨付きがあるように受け取らかねない内容だったため、発表の直後から「くだらないことにお金使っているなあ」といった批判的な意見がTwitter上でたくさん寄せられた。私は4月から朝日新聞の科学医療部という部署で内閣府の科学技術イノベーション分野担当となったのを機に、この発表の妥当性について取材を始めた。

新指標「BHQ」の売り込みをねらい

 ImPACTというのは、リスクはあっても、成功すれば大きな社会変革が期待できる研究を支援する内閣府の制度だ。2014年に始まり、5年間で予算は計550億円。大学の基盤的な研究費の削減が続く中で、異例の規模だ。研究を統括するのはプログラムマネージャー(PM)で、従来の研究支援制度と比べて研究の進め方の自由度が大幅に高いのが特徴だ。16の研究プロジェクトがあり、今回問題となったのは、脳の健康情報を可視化するテーマのものだ。PMはNTTデータ経営研究所から科学技術振興機構に出向中の山川義徳氏だった。

ImPACTのウエブサイトにある山川義徳プログラムマネージャーの紹介文
 山川PMに会うと、笑顔を絶やさず、質問するとはきはきとした話しぶりで答えが返ってきた。研究の目的を聞くと
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