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続・地球環境は限界を超えたのか

「私たちは、すでに持続可能な発展の時代にいる」 ロックストローム氏

石井徹 朝日新聞編集委員(環境、エネルギー)

 人類が生存し続けられる限界を示した「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」の研究を率いたスウェーデン出身の環境学者、ヨハン・ロックストローム氏のインタビューを続ける。

 ――SDGsにも優先順位があるということですか。

「ウェディングケーキ」と呼ばれるSDGsの関係図。土台となる生物圏の課題の上に、社会課題や経済課題が載っている拡大「ウェディングケーキ」と呼ばれるSDGsの関係図。土台となる生物圏の課題の上に、社会課題や経済課題が載っている

 この図を見てください。ウェディングケーキみたいでしょう。一番下にある「淡水」「気候」「海洋」「生物多様性」の四つは、地球を安全に運行するプラットフォームです。これらはプラネタリー・バウンダリーの9項目うちの四つでもあります。SDGs目標は、プラネタリー・バウンダリーの枠組みにつながっています。回復力があり、安定した地球システムの中で発展する、という考え方に変えることが必要です。

 17目標の下の169のターゲットを注意深く見ると、例えば、目標2の世界から飢餓をなくすというのは、みんなに健康的な食料を保障するということです。それは、持続可能な食料生産と食料計画への移行を意味しています。それには、窒素・リンの循環についても気にしなくてはなりません。土地利用についても、化学物質についても注意しなければなりません。持続可能な生産と消費という目標についても同様です。

 コア境界である気候と生物多様性の二つは、SDGs目標にあります。プラネタリー・バウンダリーの9項目は、すべてがSDGsの目標になっているわけではありませんが、目標の中には9項目が埋め込まれているのです。気候目標や生物多様性目標は、科学的に妥協することができません。ウェディングケーキの考え方を採用することで、よりよい経済発展をもたらすことができるのです。

 ――ただ、気候システムと生物多様性のコア境界は、どちらも限界を超えています。私たちはどうすればいいのでしょうか。

ヨハン・ロックストローム氏=角野貴之撮影拡大ヨハン・ロックストローム氏=角野貴之撮影
 確かに、最も大事なコア境界は、すでに危険地帯に入っています。もし私たちが現在の道をたどり続ければ、高い確率で気温上昇は2度を越える危険があります。3度も排除することができません。これは500万年の間に見ることのなかった温暖化レベルです。不可逆的で、破滅的な結果をもたらす危険性を、私たちは排除することができません。

 すべてのサンゴ礁が失われ、1~3メートルの海面上昇が不可避になり、干ばつや洪水、竜巻といった極端な気象現象が激増するかもしれない。とても大きな問題です。生物多様性も同様で、私たちは6度目の種の大量絶滅時期に入っています。脊椎(せきつい)動物の70%、大型動物たちや多くの種が、今後5年間に失われる危険があります。

 パリ協定は、人間活動を安全な領域に急速に戻すための合意です。産業革命以来の世界の平均気温の上昇を2度を十分下回り、1.5度を目指すとしています。プラネタリー・バウンダリーも、より慎重なレベルとして1.5度を置いています。生物多様性の愛知目標はプラネタリー・バウンダリーの科学と合致しません。でも悪くはないと思います。約束通りに実施されればの話ですが。

 世界は、正しい方向に動き始めました。ここ5、6年、特に気候については、大きな変化が起きています。過去3年間、地球の平均気温は最高を更新し、温暖化の影響は顕在化、深刻化していますが、それ以上に大きな変化は、問題を解決できる方法が見え始めたということです。世界の経済は、脱化石燃料化に移行できます。それは可能なことです。これこそが現在の状況にとって重要なのです。

 多くの雇用と経済的繁栄によって短期的なGDP成長を生み出し、個人が経済的にいい収入を得て、国が利益を得る。そんな時代は、終わりを告げました。

 ――気候変動に関しては、これから5~10年がとても重要だと思います。パリ協定から離脱を宣言したトランプ米大統領の行動をとても憂慮しています。

 これから5~10年がまさに正念場です。世界は、3年以内に私たちは温室効果ガスの排出曲線を下に向けなければならない。そして、今世紀の半ば、2050年までに脱化石燃料社会を実現するために、一刻も早く動かなければなりません。50年までには33年しかありません。いま始めなければ間に合いません。

 米国のトランプ大統領は気候科学に疑いを持っています。でも、私は多くの理由から、トランプ大統領について、それほど心配はしていません。

 第1の理由は、彼は、いずれ自身の気候変動の立場を後悔することになるからです。彼は起業家です。彼は、革新と変革、現代技術の発展が、本当に好きな人間だ、と主張しています。彼は、雇用と成長を生みだし、アメリカファーストを望んでいます。

 ところが、石炭鉱山に投資しても、進んだ技術、魅力的な本当の成長は達成できない。間違った馬に賭けているようなものです。世界のどこで石炭革命が始まったのか覚えていますか。1750年、ジェームズ・ワットが石炭燃焼蒸気エンジンを発明した英国の産業革命です。英国は、3年前に最後の石炭鉱山を閉鎖しました。そこは、博物館になっています。トランプ大統領は、博物館に投資したがっているのです。

拡大オーストラリアの石炭火力発電所=、小暮哲夫撮

 石炭電力会社は大きなプレッシャーの下にあります。彼らが競争力を失ったのは、CO2コストではなく、単に太陽光や風力、天然ガスに対して競争力がないからです。たとえCO2の制約を取り去っても、彼らには投資しないでしょうし、たとえ投資するところがあったにしても、雇用を創出することはできないでしょう。

 米国は離脱を表明しましたが、日本やEU、中国、インド、豪州などの世界各国は、パリ協定を実施することを決めています。クリーンエネルギーと経済成長が結びついて成功するということが、各国によって迅速に証明されるでしょう。米国は、いつものように「おっと」と言って、 ・・・続きを読む
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筆者

石井徹

石井徹(いしい・とおる) 朝日新聞編集委員(環境、エネルギー)

朝日新聞編集委員。東京都出身。1985年朝日新聞入社、盛岡支局員、社会部員、千葉総局次長、青森総局長などを務めた。97年の地球温暖化防止京都会議(COP3)以降、国内外の環境問題やエネルギー問題を中心に取材・執筆活動を続けている。共著に「地球異変」「地球よ 環境元年宣言」「エコウオーズ」など。

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