「ヒトを教える」教育の導入が、魅力を高め、医療費削減にもつながる
2017年09月04日
厚生労働省が2016年9月に発表した「平成27年度の医療費の動向」によると、日本の医療費の総額は41.5兆円。前年度に比べて約1.5兆円の増加となった。医療費は国家予算の4割以上を占めている。高価な医薬品や医療機器の増加がさらに追い打ちをかける。何とか医療費支出を抑制しないとこの国の予算はたいへんなことになる。本稿のポイントは教育の見直しによって社会の医療負担を減らそうということにある。
私は毎年、国際生物学オリンピックの日本チームの一員として参加する。60数か国で選抜された代表高校生(国当たり4名)が生物学の考え方や実験スキルを競う。生徒たちのほか、問題文を各国語に翻訳するため、教員も多数参加する。教員たちは自分たちが使っている高校生物の教科書を持ち込み、その内容比較も行う。日本の教科書はコンパクトで人気がある。
その反面、アジアや欧米の教科書と比べ、「ヒトの生物学」が極めて乏しい。日本の高校生物教科書は理学系の研究者が執筆し、医学系は動員されない。そのためか、ヒトの遺伝病より大腸菌やハエの突然変異を説明に力点がおかれる。大腸菌のウイルス感染は述べても、ヒトの感染症に関する記述は少ない。
高校生物の学習指導要領には病気の予防や治療という観点はない。「ヒトの生物学」が無い分、コンパクトな反面、他国の教科書より基礎生物学的内容が多い。将来、生物学系を専攻する人には良いだろうが、一般の生徒には魅力やメッセージ性は乏しい。
国際生物学オリンピックで知り合った友人から、オランダの学校で現在、13歳から14歳向けの教科書として使われている「Your Biology」(2017年、オランダMalmberg刊、写真は英語版)を手に入れた。その内容に驚く。露骨といえるほど、「ヒトの生物学」があふれているのだ。
極め付けは生殖に関する部分。月経の仕組み、射精から受精までの解説。妊娠のメカニズムや妊娠判定の様子。さらに避妊方法をきれいな図や写真を使って紹介している。男性用と女性用コンドームや避妊用ピル、女性器滞留型の避妊リングの解説。そのあと、性感染症に発症した時の男女生殖器官の様子を
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