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ニホンザルの猿害問題の悩ましさ

農作物を食べる「加害群」は子だくさん、山奥深くの「非加害群」は子が少ない

松田裕之 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

拡大ミカンをほおばる野生ザル=2003年、小田原市、田中悦二撮影
 ニホンザルは人気があるが、実は農作物被害、人身被害が深刻さを増している。サルの場合、群れ単位で「加害群」と「非加害群」に分け、加害群の個体数とその加害レベル、および非加害群の個体数が多くの都府県で推定できている。加害群のサルを減らし、非加害群のサルを保護できればいいわけだが、少々厄介なことに、農作物を食べている群れのほうが出産率が高いという知見も指摘されている 。残念ながら、群れを残しながら加害レベルを下げる確実な手段はない。こうした状況の中でサルの管理を行うには、群れ構造と群れ単位での加害レベルを考慮した個体群管理の数理モデルが必要である。

 神奈川県の場合、県内のサルを3つの地域個体群に分けている(図)。群れごとの個体数と加害レベル、行動域を毎年監視し、群れごとの出産率も推定している。群れごとの目標頭数を定め、加害レベルに応じた対処方針を定めたなど、きわめて先進的な管理計画を実施していた。

拡大図:神奈川県西部のニホンザルの群れ分布と行動域、加害レベル(神奈川県2015 、2016 より筆者作図)
http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/837401.pdf

 サルでは、加害群といえども遺伝的に差異のある集団、すなわち「進化的に重要な単位(ESU=Evolutionary Significant Unit)」を残そうという意見がある。ニホンザルの個体群は大まかに岡山県および四国以西の西日本とそれ以外の東日本に分けられ 、精査すればさらに細分した個体群ごとに遺伝的差異が認められる。しかし、統計的に有意な遺伝的差異が認められたものをすべて保存する必要があるとは限らない。地域個体群の消滅と分裂はある程度自然に起きることであり、人間の影響で消滅の頻度が高すぎることが生物多様性上問題となっている。どこまでESUを細かく捉え、保護の対象とするかは、科学者が決めることではなく、被害の程度も考慮して、社会合意に委ねるべきだろう。

 神奈川県の悩みは、 ・・・続きを読む
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筆者

松田裕之

松田裕之(まつだ・ひろゆき) 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

京都大学理学部および同大学院博士課程卒業(理学博士)、日本医科大学助手、水産庁中央水産研究所主任研究官、九州大学理学部助教授、東京大学海洋研究所助教授を経て 2003年より現職。GCOE「アジア視点の国際生態リスクマネジメント」リーダー(2007-2012)、日本生態学会元会長、日本海洋政策学会理事、個体群生態学会副会長。ヨコハマ海洋みらい都市研究会共同代表。

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