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クロマグロを増やすために本当に必要なこと

推定量の不確実性を直視し、「順応的管理」を取り入れよ

松田裕之 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

拡大中西部太平洋まぐろ類委員会北委員会の会場=2017年9月1日、韓国・釜山 、山村哲史撮影
 太平洋クロマグロの管理法を話し合う中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の北委員会(日米韓など10カ国・地域で構成)で漁獲枠を増減させる新ルールがまとまった。12月に正式決定となる見込みだ。だが、このルールにはそもそも大きな問題がある。前提とされる資源量推定値の不確実性がきわめて高いことだ。不確実性が高いときに実効性ある管理を行うためには、管理実施後もモニタリングを続け、最新の資源評価などをもとに漁獲枠を決め直すことが必要で、その変え方を具体的に決めておくことが重要である。これを順応的管理という。新ルールでは資源が回復しない場合の具体的な措置の中身がなく、問題が多い。

 現在、WCPFCは「2024年までに親魚を4.1万トンに60%の確率で回復させる」との目標を掲げ、漁獲枠を決めている。韓国・釜山で9月1日まで開かれた北委員会で、日本政府は「資源量の回復の可能性が60%を下回れば漁獲枠を減らし、65%を上回れば漁獲枠を増やす」という新ルールの提案をした。増やすときの基準をより厳しく75%とすることで合意が成立し、また親魚の量を2034年までに「初期(英語ではUnfished)親魚資源量(以下Bゼロ)」の20%に増やす目標も決めた。

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 議論の前提となっている資源量は、WCPFCの国際科学委員会(ISC)が発表したものである。2014年に親魚資源量は約1.7万トンと推定され、これがBゼロの2.6%と言われた。Bゼロとは、同じ加入量(漁業の対象になるまで成長、生残した個体数のこと)に対して漁業がない場合の全体の数と位置づけられていて、約65万トンとなる。今回合意された目標「20%Bゼロ」はおよそ13万トンにあたる。

 問題は、これらの数字の不確実性が高いことであり、昔はBゼロだけ資源があったということを意味しないということだ。環境問題では、将来の懸念に予防原則に基づいて対処することが多い。そのため、未実証の悲観的な前提に基づいた数値解析が多用される。当然ながら、試算された数字が不確実であることに留意せねばならない。しかし、しばしば「都合のよい作り話」が「不都合な真実」よりも多用される。これは政府だけでなく、環境団体も変わらない。Bゼロが不確実である以上、20%Bゼロという目標には、つねに異論が付きまとう。

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筆者

松田裕之

松田裕之(まつだ・ひろゆき) 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

京都大学理学部および同大学院博士課程卒業(理学博士)、日本医科大学助手、水産庁中央水産研究所主任研究官、九州大学理学部助教授、東京大学海洋研究所助教授を経て 2003年より現職。GCOE「アジア視点の国際生態リスクマネジメント」リーダー(2007-2012)、日本生態学会元会長、日本海洋政策学会理事、個体群生態学会副会長。ヨコハマ海洋みらい都市研究会共同代表。

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