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物理オリンピックで世界一になった高校生

「未来の超弦理論研究者」が語る夢と、ぶつかる壁の乗り越え方

伊藤隆太郎 朝日新聞記者(科学医療部)

 高校野球に「甲子園」という最高目標があるように、理数系の高校生たちにも憧れの頂点がある。「国際科学オリンピック」だ。
 数学・物理・化学・生物学・地学・情報・地理の教科ごとに、国際大会が毎夏、世界各地で開かれる。出場できるのは、各教科ごとにある国内予選を勝ち抜いた高校生以下の代表メンバー、4〜6人ずつだ。今年も全国から約2万人が挑み、合わせて31人が選出された。
 国際大会では数日間をかけて、超難度の問題に挑む。教科ごとに理論や実技、またはその両方の問題が課され、成績によって金・銀・銅のメダルを授与される。日本は毎年、多くのメダルを獲得するが、とりわけ今年は好成績ぶりが際立った。
 このうち、インドネシアで開かれた物理オリンピックでは、理論3問と実技2問の合計で、日本人初の「総合最高得点」が誕生した。快挙に輝いた東大寺学園高校3年の渡邉明大さん(18)を学校に訪ねると、マシンガントークが炸裂。くり出される物理愛の言葉からは、「科学を楽しむとは、どういうことか」が垣間見えた。

――理論の1問目は、銀河系の暗黒物質の質量計算でした。難問ですよね?

 いいえ、平均的です。大会には高校1年から出場していて、最初の年なら「これは難しい」と感じたでしょうけど、3年目の今年は冷静に臨めました。(かなり早口)

――2問目は火山の噴出ガス速度や地震波の伝播時間ですが、予想していた?

拡大東大寺学園高校3年の渡邉明大さん。おすすめの物理参考書を訊ねると、「ランダウ=リフシッツです」=奈良市山陵町
 昨年はスイスが会場だったので、フランス国境にある欧州原子核研究機構(CERN)の大型加速器「ラージハドロンコライダー」にちなんで、素粒子物理が出題されると予想できました。でも今年は特に考えていなくて、問題を開いて「そうか、ここは火山が多いからな」と気づいたくらい。(やはり、かなり早口……以下略)

――慌てない性格ですか?

 うーん、内心はめっちゃ動揺しているんですけどね。外には出さないタイプかな。3年連続で金メダルの人はいないから、ぜひ達成したいと思っていて、今年も取れるはずだというプレッシャーはありました。

とにかく「手を動かす」、それが物理

――普段、どうやって動揺を乗り越えるの?

 いつまで焦っていても意味はない。「今できることをやろう」と気持ちを切り替えます。そもそも動揺するということは、自分自身の準備不足が原因です。だったら、残された時間にできることは何か、を考えます。

――「膨大な計算をどんどんやる」が、渡邉さんのスタイルだとか。

 ええ、めっちゃ、やります。もし問題が分からなくても、分からないなりに手を動かすことが大切。いっぱい書きながら、「あっ、これは行けるかも」と気づく。ぐだぐだと頭のなかで迷うより、とりあえず書いて形にすると、見えないものが見えてくる。

――試行錯誤の方法が確立していますね。

 専門書を読むときも、行き詰まったらとにかく計算です。すると「これは当たっているかも」とか「いやダメだ」とかが見える。今年の第1問のダークマターの問題も、やっぱりカリカリと計算していたら、だんだん解法が見えた。だから物理はおもしろい。ダークマターなんて高校の範囲じゃないけど、物理オリンピックは出題が広いから、普段からいろいろ勉強しています。それでも知らないことはある。だから手数をくり出し、追い詰め、最後に「終わった〜」ってなる。楽しかったです。

苦手だったのは特殊相対論だが…

――力学とか電磁気学とか光学とかで、苦手な分野は?

 昔は、特殊相対論でしたね。物理オリンピックで予想される問題には、相対論系だと2種類ある。相対論的力学の問題と、ローレンツ変換を駆使する問題です。ぼくは力学は得意ですけど、ローレンツ収縮とかはちょっとダメ。だから初めての大会では「ローレンツは出ないでくれ」って願いました。でもその後、重点的に復習して、今は得意分野です。

――どこで、つまづいていたのでしょう。

拡大「総合最高得点」のほかに、「実験問題最高得点」でも表彰。当日は実験器具が故障するハンディーを負ったが、落ち着いて克服した

 やっぱり手を動かさなかったのが原因です。妙に気取って、式を書かずに理解しようと横着した。それで、かえって混乱して。でも「きちんと計算すればいいだけやん!」って気づいて、乗り越えました。

 むしろ、いま一番恐いのは、得意なはずの一般の力学ですね。問題として出されると恐い。意外と単純なはずなのに、方針を立てづらい問題があって、油断できません。例えば、こうやって机に立てた鉛筆を倒すとき、先端の速度がどうなるかとかは、一見すると簡単ですよね

――まあ、重心の角運動量を記述すればいいのかな。

 でも、そのシンプルな問題を巧みに組み合わせた問題に、難問がひそんでいるんです。だから勝負は、最初にどれだけ多くの方針を立てられるか。そこが力学のおもしろさです。

 とにかく手順をたくさん準備する。いろいろな道筋を立て、どれが有効かをさぐる。問題の状況を、多方面から的確に把握して、ちゃんとした式にするのは、実は意外と難しい。だから、とにかく手を動かすんです。 ・・・続きを読む
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筆者

伊藤隆太郎

伊藤隆太郎(いとう・りゅうたろう) 朝日新聞記者(科学医療部)

1964年、北九州市生まれ。1989年、朝日新聞社に入社。筑豊支局、西部社会部、AERA編集部などを経て、2016年から科学医療部。

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