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北朝鮮の核の脅威への対応で肝心なこと

6回目の核実験強行は「核抑止力」の無力を示すことに気づこう

鈴木達治郎 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は2017年9月3日に6回目の核実験を行い、「大陸間弾道ミサイル(ICBM)搭載のための水爆実験に完全成功した」と発表した。度重なるミサイル発射と核実験は、国連安全保障理事会決議違反であり、国際社会として絶対に許容できない。一方で、北朝鮮の「挑発」活動に対し、米トランプ政権を中心に、米日韓政府はこれまで以上の軍事圧力を強めており、今までにないほどの緊張関係が続いている。さらに、韓国だけではなく、日本国内にも、「独自の核抑止力」を持つべきだ、との意見が目立ち始めた。折しも8月25~29日、カザフスタンで開催された第62回パグウォッシュ会議世界大会に参加し、国際社会が持つ北朝鮮への危機感を肌身で感じた。そこでの議論なども踏まえて、昨年1月20日の本欄「北朝鮮『核実験』にどう対応すべきか」で書いた「北東アジア非核兵器地帯の実現を」という提言をさらに見直す形で検討してみたい。

北朝鮮の核兵器能力はほぼ完成に近づく

核の兵器化事業を指導する金正恩朝鮮労働党委員長(右から2人目)。日時は不明。朝鮮中央通信が9月3日に報じた=朝鮮通信
 今回の核実験規模は、当初70キロトン程度と推定されていたが、その後に160キロトン(防衛省発表)程度、広島・長崎原爆の約10倍以上の威力であったと変更された。そうだとすれば、今回は「水爆」であった可能性が高い。北朝鮮が発表した写真を見ても、従来の球形ではなく、一次系(核分裂性の原爆)と二次系(核融合反応の水爆)に分かれたひょうたん型をしており、見た限りでは、確かに水爆のように見える。また、同時に発表された声明文を読んでも、水爆に関する技術的能力を獲得しているように見える。

 いずれにせよ、ミサイル搭載可能な「核兵器の小型化」は時間の問題であり、北朝鮮の核兵器能力はほぼ完成の域に近づいたとみてよいだろう。今後も核実験を繰り返す可能性もあるが、それがなくとも、十分な核兵器能力を既に獲得したと考えるのが妥当だ。ミサイル発射実験がさらに進めば、核兵器能力はもはや「挑発外交の手段」ではなく「本格的な核抑止力」を持つことになる。これは、北東アジアのみならず、世界にとっても深刻な核の脅威として認識されねばならない。

 ここまでくると、第1に懸念するのが、「レッドライン」(米国が軍事攻撃を行うか否かの判断基準)を超えたかどうかという点だ。北朝鮮にしてみれば、「核抑止力の強化」で米国は手を出せない、と思っているかもしれないが、米国にしてみれば、これ以上の核能力強化を認めないと判断すれば、軍事行動に出る可能性も十分にある。したがって今回の核実験は、北朝鮮にとっては極めて危険な賭けということになる。

 第2に「非核化を要求するのは非現実的」という見方が広がり、「北朝鮮を核保有国として認知」すべきとの見方が出始めることだ。そうなると核拡散の歯止めが外れ、雪崩現象が起きる恐れがある。

パグウォッシュ会議での冷静な分析と提言

第62回パグウォッシュ会議世界大会開会セッションの風景。左からボチャルニコフ・在カザフスタンロシア大 使、コッタ・ラムジーノ・パグウォッシュ会議事務総長、トカイエフ・カザ フスタン上院議長、ダナパラ・パグウォッシュ会議会長、中満・国連事務次長軍縮担当上級代表、デュワルテ・パグウォッシュ会議次期会長=筆者撮影
 核兵器の廃絶を願う科学者が集まって始めたパグウォッシュ会議の第62回世界大会は、セミパラチンスク核実験場を閉鎖して非核兵器地帯の創設に貢献したカザフスタンの首都アスタナで開催された。冒頭セッションは「包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期締結)」と、最近採択された「核兵器禁止条約」についての議論が占めたが、大会全体として注目された議論の一つが北朝鮮の核問題を含む「北東アジアの安全保障問題」であった。少人数(20~30人程度)で分かれて議論を行う作業部会でも、危機感を持ちながらも冷静な分析と提言が作られた。

 その概要は以下の通りである。

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