「病気の原因遺伝子を修復」という主張に対し、「削除しただけ」という反論
2017年09月20日
オレゴン健康大学の生物学者ショウクラット・ミタリポフら国際研究チームが、ヒトの受精卵でゲノム編集実験を行った結果を今年8月2日に科学誌『ネイチャー』電子版で発表した論文が議論を呼んでいる。「ゲノム編集で、変異のある遺伝子を正常な遺伝子に置き換えた」というミタリポフらの主張に対し、「染色体DNAを大きく削除しただけ」という反論が出たのだ。
ゲノム編集とは、生物の遺伝情報が書き込まれているDNAを、まるでワープロのように切り貼りする技術のことである。動物やヒトの場合、体細胞をゲノム編集してもその改変結果はその個体に限定されるが、受精卵や胚、精子、卵子をゲノム編集すれば、子孫にも伝わる。そのためヒトの受精卵などのゲノム編集に対しては、科学者たちは慎重な態度を取っている。
ヒトの受精卵にゲノム編集を行ったことを報告する論文は今回が初めてではなく、2015年4月以来、4例目である。3例目まではすべて中国の研究者らによるものであった。『ネイチャー』のような有名誌で報告されたのは初めてである。
ミタリポフらが対象にしたのは「MYBPC3」という遺伝子の変異で、「肥大性心筋症」という心疾患の原因となるものである。
ゲノム編集で避けたいことの1つは「目的外(オフターゲット)効果」といって、編集しようとしていない部位のDNAを改変してしまうことである。もう1つは「モザイク」といって、ゲノムを編集された細胞と編集されていない細胞の両方が一個体の身体の中に存在してしまうことである。
彼らはこの変異のある遺伝子を正常な遺伝子と置き換えるために、この変異遺伝子を持つ男性の精子を、健康な女性の卵子に顕微授精するとき、「CRISPR/Cas9(クリスパー・キャス9)」と呼ばれるゲノム編集に必要なセットをいっしょに送り込んだ(図参照)。その結果、58個の胚のうち42個のゲノムを編集できたことがわかった。
つまり
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