メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

今年のノーベル医学生理学賞、イチオシはこの人

がん免疫治療薬に道を開いたアリソン氏が最有力だ

浅井文和 医学文筆家

 WEBRONZA恒例のノーベル賞予測へようこそ。今年の科学3賞は10月2日から発表される。そのトップバッターとなるノーベル医学生理学賞の予測記事は、昨年までは生命科学者の佐藤匠徳氏が執筆していたが、今年は元新聞記者の私が挑戦する。

 ノーベル賞を担当する新聞記者の仕事はなかなか厳しいものだ。医学生理学賞の発表は日本時間の午後6時30分。そこから朝刊の印刷に間に合うように慌てて記事を出稿しなければならない。「誰が有力か」という洞察と周到な事前準備が欠かせない。

 私は朝日新聞の記者時代に毎年、ノーベル賞発表直前に「浅井メモ」と称する予測リストを作ってきた。「今年はこの研究テーマのこの人が受賞しそう」という研究テーマを数件に絞って予測する。手元にメモが残る2005年から2016年までの12年間で予測リストのうち1人でも受賞した「当たり」は8回。4回は的中しなかったが、受賞者の傾向はだいたい掴んでいるつもりだ。

がん免疫治療薬に道を開いたアリソン氏

 さて、今年の受賞者はだれだろう。

 1人に絞ると、がん免疫治療薬の新しい道を切り開いた米国の免疫学者ジェームズ・アリソン氏が有力だ。アリソン氏は米国有数のがん研究拠点、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターで免疫学分野の部長を務める。

 がんの治療はがんを切り取る外科手術、放射線でがん細胞を殺す放射線療法、抗がん剤などを使う化学療法が3大治療とされる。免疫療法は「第4の治療法」として注目されてきたものの、治療効果が十分ではなく、3大治療と並ぶ地位には至っていない。しかし、アリソン氏は新たながん免疫治療薬開発につながる発見をした。この発見が皮膚がんの一種、悪性黒色腫の治療薬として実用化され、がん治療への貢献が高く評価されているのだ。

 がん細胞はもともと正常な細胞の遺伝子が変化し、歯止めがきかなくなって異常に増えてしまうものだ。体内では免疫の仕組みが異物を見張っていて、がん細胞を異物とみなして攻撃する。免疫の監視が完璧ならばがんという病気は起きないはずだが、そうはいかない。がん細胞は攻撃を避けるため、免疫で重要な役割を果たしている細胞の働きを抑制するブレーキの仕組みを利用する。アリソン氏は1990年代、CTLA-4という分子がブレーキに関わっており、その分子を妨げてブレーキを外すことで免疫を活性化してがん細胞を攻撃できることを示した。これが「免疫チェックポイント阻害薬」の原理になっている。

拡大ラスカー賞の受賞スピーチをするジェームズ・アリソン氏=ラスカー財団のホームページから

 それ以前の免疫療法は主にがん細胞への攻撃力を強めようとアクセルを踏む戦略だった。アリソン氏の戦略の画期的なところはブレーキを外すことでがん細胞を攻撃しようとするものだ。

 免疫チェックポイント阻害薬の開発は世界中で進んでいて、対象になるがんの種類も、肺がん、腎がんなどに広がっている。

 一昨年、米国のラスカー賞を受賞した時の講演で、アリソン氏は免疫チェックポイント阻害薬の治療後10年の生存率が必ずしも高くないことを指摘し、「この数字をもっと上げなければならない」と語った。まだ発展途上の薬であり、過度な期待は禁物だ。

 しかし、 ・・・続きを読む
(残り:約943文字/本文:約2249文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
デモクラシーやJournalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

浅井文和

浅井文和(あさい・ふみかず) 医学文筆家

元朝日新聞編集委員。1983年に朝日新聞入社。1990年から科学記者として医学、医療、バイオテクノロジー、医薬品・医療機器開発、科学技術政策などを担当。2017年1月退社。連載記事「患者を生きる」「がん新時代」「認知症とわたしたち」などに参画。

浅井文和の新着記事

もっと見る