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還暦を迎えた宇宙時代と「地球まるごと」の科学

米国を震わせた「スプートニク・ショック」から60年の歩みとこれから

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 10月4日は人類初の人工衛星スプートニクが打ち上がった日だ。1957年のことである。それは奇しくも南北両半球まとめて地球を総合的に観測すべく、世界規模での国際協力が行なわれた国際地球観測年(IGY)の開始年(7月1日)でもあり、それに参加すべく日本が南極観測を始めた年でもある。当時、スプートニクに始まる人工衛星が、地球観測に今ほど不可欠になるとは誰も思わなかったかっただろう。

拡大1957年10月4日に打ち上げられた人類初の人工衛星スプートニク
 それは他の分野にももちろん当てはまる。科学に限っても、太陽系探査はもちろんのこと、ハップル望遠鏡やエックス線・赤外線衛星に代表される天文学への応用、無重力という環境を利用した生物・物質科学への応用等、もはや人工衛星・太陽系探査機は現代科学に不可欠な要素となっている。これらを網羅するのは無理なので、本稿では地球科学に絞って衛星が観測に不可欠になってきた流れを振り返りたい。もっとも、それだけでも、純粋な科学目的と実用目的の両者があって膨大な数になるので、私の主観が多分に混じることはあらかじめ断っておく。太陽系探査や月探査に関しては過去の記事(「太陽系探査の『大航海時代』の終わり」「37年ぶりの月面着陸を祝う」)を参照して欲しい。

「限られた予算」への挑戦

 IGYでは観測の多くが人力であり、拠点を置くだけで金がかかるものだった。そして、終戦から10年余りしか経ていなかった当時、どこも経済的に厳しく、国際協力キャンペーンの2年間だけ観測網を展開するのがやっとで、南極昭和基地のような例外を除けば、多くの臨時観測点が閉鎖された。大国である米国と旧ソ連ですら、臨時観測点を閉鎖し、そのほとんどは復活しなかった。たとえば、私が1990年にオーロラと地磁気の素直でない関係を調べようとした際に、1957-1959年の記録を精査せざるを得なかったことがある。

 しかし、地球システムを理解するのに2年はあまりにも短い。特に地球に流入する太陽エネルギーに対する反応は、わずか2年のデータだけで分かるものではない。いわゆる11年周期と呼ばれる太陽活動周期(10-13年単位の黒点活動の増減と、それに伴う光や粒子・電波など各種エネルギー放射の変動)や、それより長い100年単位の変動(これが地球の平均気温に影響を及ぼす)、それより長い時間のかかる変動を経ているからだ。その理由だけでも、IGYで展開されたのと同等のレベルの観測が長期にわたって必要だ。

 しかも、人間の生活にかかわる、狭いスケールの現象(例えば集中豪雨やオーロラに伴う停電)を理解するには、IGY当時とは比べものにならないほど稠密な観測点が必要となる。それを限られた国家予算の中でいかに実現するか。それは科学・実用を問わず地球観測における最大のチャレンジのひとつだ。

 その一つの方向性が、観測の自動化だ。たとえばアメダスがそうだ。これによって、25kmメッシュでの観測が可能となっている。放射線観測網もドイツなどでは全国を覆っている。日本もその気になればアメダスに乗せるだけで安価でできるが、縦割り行政の弊害で全くすすんでいない。また、レーダーなどによるリモートセンシングも有効で、こちらは局地豪雨などの微細現象の把握に役立っている。

 しかし、これらは人口密度の高い日本では有効な解決策であっても、人のいない海や南極・北極での観測には使えないし、オーロラのような超高層現象でも高価すぎる。そこで登場するのが人工衛星だ。

1〜2週間で全球を網羅

 その役割は、オーロラを起こす原因の探究のように、宇宙という場所での直接観測が必須の対象に限らない。すでにスプートニクからわずか2年で、人工衛星から地球を撮影して、気象などを探るミッションが米国で始まっている。ただし、当時の人工衛星に期待された役割は、あくまで上空のモニターや調査であり、実用に応用するにしても地上観測に基づく天気予報などの補助というものだった。

拡大準天頂衛星「みちびき」の打ち上げ=2017年6月1日、金子淳撮影
 このイメージを大きく変えたのが1972年に打ち上がったランドサット(Landsat)1号だ。これは資源衛星の先駆けであり、これを契機に気象に限らず、地上や地下の状態を衛星から観測するという流れが始まった。私が中学に上がった頃、その画像が公開されニュースにも流れたが、宇宙から地上の植生や建造物密集度ばかりか、浅い地下資源までわかるという説明を聞いた時は、子供の私も「すごい」と思ったものだ。

 もちろん、地上や地下を精査するなら、現地調査や航空機による調査の方が精度が高い。しかし、それは限られた範囲だけの調査が限界となる。 ・・・続きを読む
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筆者

山内正敏

山内正敏(やまうち・まさとし) 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

スウェーデン国立スペース物理研究所研究員。1983年京都大学理学部卒、アラスカ大学地球物理研究所に留学、博士号取得。地球や惑星のプラズマ・電磁気現象(測定と解析)が専門。2001年にギランバレー症候群を発病し1年間入院。03年から仕事に復帰、現在もリハビリを続けながら9割程度の勤務をこなしている。キルナ市在住。

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