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重力波天文学が始まった

物理法則に矛盾しない現象は、宇宙のどこかに実在し、やがて観測できる

須藤靖  東京大学教授(宇宙物理学)

 米国の重力波実験LIGO(ライゴ)は2015年9月14日に人類史上初の重力波直接検出に成功し、その直後からノーベル物理学賞確実と目されてきた。事実、2017年のノーベル物理学賞は、LIGO検出器での重力波観測に決定的な貢献をしたマサチューセッツ工科大のレイナー・ワイス名誉教授、カリフォルニア工科大のバリー・バリッシュ名誉教授とキップ・ソーン名誉教授の3名に授与されたことは記憶に新しい。今回は、予想が困難なノーベル賞の歴史においてもおそらく稀有な、本命中の本命の受賞だったと言える。

拡大中性子星の合体による重力波や電磁波
 この最初の発見(その検出年月日に対応して「GW150914」と呼ばれる、以下同様)は、連星ブラックホールの合体に伴うものだったが、その後も2015年12月26日、2017年1月4日、8月14日の3回、連星ブラックホールからの重力波が相次いで検出された。この4回の結果は、「GW150914」が29+36=62、「GW151226」が14+8=21、「GW170104」が31+19=49、そして「GW170814」が31+25=53と要約できる。

 これらは例えば、2015年9月14日に検出されたイベントが、太陽質量の29倍と36倍の二つのブラックホールからなる系の合体によって62倍のブラックホールになり、その差に対応する太陽質量の3倍もの膨大なエネルギーが重力波として放出されたことを示している。特にGW170814は、ヨーロッパで稼働を始めたばかりのVirgo(ヴァーゴ)でも同時に検出された。おかげでLIGOだけの場合に比べ、格段に高い精度で重力波到来方向の推定が可能となった。

中性子星の合体を重力波で観測した意義とは

 ところで、重力波の初検出自体もさることながら、それらが大質量ブラックホール連星の実在を証明したこともまた、驚き以外の何物でもない。その意味では、これらの発見はノーベル賞2個分に値するとも言える。ただ残念ながらブラックホールの宿命というべきか、重力波以外の電磁波での信号は検出されておらず、天文学全体へのインパクトはまだ弱かった。

拡大記者会見するLIGOやVirgoの研究者ら=10月16日、米ワシントン、香取啓介撮影
 このような歴史的な発見に対してわがままな文句をつけるのもどうかとは思うのだが、なんとそれを払拭してくれる大発見が、日本時間の10月16日午後11時に発表された。連星中性子星の合体にともなう重力波イベント「GW170817」である。

 これが過去4回の連星ブラックホールからの重力波の発見とどのように異なる意義を持つのか。簡単にまとめておこう。

  1. LIGOの重力波の解析から、これは太陽質量の0.86から2.26倍の範囲にある2つの天体が衝突したことが結論できる。これは、いずれも現在知られている中性子星の質量範囲と一致する。一方、これだけ低質量のブラックホールは未だ知られていない。そのため、これらは中性子連星の合体に伴う重力波であると考えられる。
  2. LIGOが重力波を検出した2秒後に、γ線観測衛星「フェルミ」がγ線を放射する天体を発見した。これは長らく正体が謎であったγ線バーストと呼ばれる天体の、少なくとも一部(特に継続時間が短い種族)が中性子連星合体に伴うものであるとする以前からの仮説を検証した。
  3. Virgoだけでは重力波の検出はできなかったものの、LIGOの検出データと組み合わせることで、重力波と考えられる微かな信号の存在が浮かび上がった。いずれにせよ、すでにVirgoは8月14日に重力波の検出に成功しており、それが強い信号を検出できなかったという事実は、衛星フェルミのデータと合わせて、候補天体の位置を絞り込む上で大きな役割を果たした。
  4. LIGOと衛星フェルミの結果は、直ちに世界中の天文学者に知らされ、追観測が行われた。その結果、70を超える地上あるいはスペース望遠鏡が、ガンマ線、X線、紫外線、可視光、赤外線、電波という電磁波の広い波長帯において、信号を検出した。このように、今のところ重力波しか検出されていない連星ブラックホールの場合とは異なり、天文学全体に大きな波及効果をもたらした。
  5. 鉛や金、プラチナなどの鉄より重い金属の起源は今まで謎であった。しかし、その多くが連星中性子星合体の際に生成されたのではないかとする仮説が提案されていたが、今回の他波長観測結果はその説を裏付けた。

広大な宇宙全体が物理法則に合致

 このように、すでに現時点においてですら、今回の発見は、天文学における永年の謎の解明に大きな威力を発揮した。それらの解明の先には、さらなる新たな謎が見えてくるであろう。まさに、新たな天文学が今始まったのである。

拡大中性子星の合体による光の放出(右)と時空のひずみ(左)のイメージ=LIGOなど提供
 ところで、今回の連星中性子星の重力波検出で極めて重要な貢献をした一人が、東京大学ビッグバン宇宙国際研究センターの ・・・続きを読む
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筆者

須藤靖

須藤靖(すとう・やすし)  東京大学教授(宇宙物理学)

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。1958年高知県安芸市生まれ。第22期・第23期日本学術会議会員。主な研究分野は観測的宇宙論と太陽系外惑星。著書に『ものの大きさ』、『解析力学・量子論』、『人生一般二相対論』(いずれも東京大学出版会)、『一般相対論入門』(日本評論社)、『三日月とクロワッサン』、『主役はダーク』『宇宙人の見る地球』(いずれも毎日新聞社)などがある。

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