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日本の核外交を転換する絶好の機会が訪れた

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)がノーベル平和賞を受賞する意義

鈴木達治郎 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)センター長・教授

 2017年のノーベル平和賞は「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」が受賞した。ノーベル委員会によるその授賞理由は「核兵器の利用がもたらす、壊滅的な非人道的結果に対する関心を高め、核兵器を法的に禁止する条約を成立させた画期的な努力」とある。この文章にあるように、2017年7月に採択され、9月から署名が開始された「核兵器禁止条約」成立に向けての努力が評価されたのである。

 ただ核兵器禁止条約には、肝心の核兵器国はもちろんのこと、日本をはじめとする「核の傘」国が反対しており、その実効性に課題があることも指摘されている。このノーベル平和賞の持つ意味はどこにあるのか。そして唯一の戦争被爆国である日本は、核廃絶と核の傘の両立というジレンマをどう解消すべきか。

被爆者と市民社会への受賞

 受賞団体であるICANは、ジュネーブに本部を置く国際NGOであるが、非人道性を理由に対人地雷を禁止したオタワ条約にならい、核兵器の法的禁止を目指してオーストラリアで2007年に立ち上げられた。その構成はまさに市民社会の代表ともいえる組織となっている。設立当初から、国際的な連携を重視して、趣旨に賛成する団体は誰でも参加できるネットワークを構築し、今や100か国以上、数百のNGOがメンバーとなっている。国際運営委員会には、日本からピースボートが参加している。

拡大「ヒバクシャ地球一周 証言の航海」=ピースボート提供
 このピースボートの参加が、ICANにとって大きな意味をもつことになった。それはピースボートが2008年から始めた「ヒバクシャ地球一周 証言の航海」(おりづるプロジェクト)と連携することになったからである。この被爆者の証言航海は、世界中に広島・長崎からのメッセージを伝えることに大きく貢献した。「核兵器の非人道性」に関する国連会議においても、被爆者の証言が毎回設定され、世界の外交官にもヒバクシャのメッセージを伝えることに貢献した。ICANの国際パートナー組織として、日本から「平和首長会議」も参加しており、広島・長崎市長も、核兵器の法的禁止を各国首脳に訴える市民外交を続けてきた。

 このような、被爆者や被爆地の貢献は、核兵器禁止条約の前文に明記されたことからも明らかである。ICANのノーベル平和賞受賞は、この被爆者と市民社会への受賞、とも言い換えられるのである。

国家安全保障から人間安全保障へ

 ICANがキャンペーンの理念として挙げたのが、「核兵器のもたらす非人道性」であり、これが核兵器禁止条約の前文に見事に反映されている。

 条約第2項には、「あらゆる核兵器の使用から生じる壊滅的な人道的結果」を深く懸念し、「核兵器が決して使用されない唯一の保証として」の「核兵器の完全な廃絶の必要性」を強調している。第3項では、「核兵器の継続する存在によるリスク」を想起し、これらは「すべての人類の安全保障に関するリスクである」ことを強調している。第6項は、核兵器使用の犠牲者として(ヒバクシャ)が明記され、その苦しみに留意している点は前述した通りである。

 この「人道的アプローチ」に基づく「人間の安全保障」が核兵器禁止条約のキーワードであり、今後の核兵器と安全保障をめぐる議論に大きな転換を示唆するものである。条約に反対する核兵器国や核の傘国は、「国家安全保障」の観点から、核抑止の必要性を訴えている。しかし、今回のノーベル平和賞は、この「人間の安全保障」にもとづく核兵器禁止条約の価値を世界に訴えたのである。これは、対人地雷禁止条約成立に貢献した地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)へのノーベル平和賞授与と共通するものであり、ICANが目指してきたものとまさに重なるものであった。

日本の核外交転換の時

 そこで日本の核外交の対応である。核兵器禁止条約の交渉にも参加せず、核兵器禁止条約にも署名しないことを明らかにしており、その理由として、「北東アジアが置かれた厳しい安全保障環境」を挙げ、「核の傘」に依存する安全保障政策を転換する兆しは全くない。広島、長崎における原爆平和祈念式典でも、安倍首相は「核兵器禁止条約」に一言も触れず、これでは被爆者から「あなたはどこの国の首相ですか」と言われるのも無理はない。

拡大ノーベル平和賞が決まり、記者会見に臨むICANのフィン事務局長=2017年10月、スイス・ジュネーブ
 それでも10月13日には、国連総会に24年連続で「核兵器廃絶決議案」を提出した。しかし朝日新聞の報道によると、やはり核兵器禁止条約には言及せず、「核なき世界にむけて様々なアプローチがある」、として、日本の置かれた厳しい安全保障環境を強調する決議文となっている。

 さらに驚いたのは「あらゆる核兵器の使用がもたらす非人道的結末」という表現から、「あらゆる」がすっぽり抜けてしまったことは衝撃的だ。これは、核兵器でも使い方によっては「非人道的結末」をもたらさない、ということにつながり、国防省専門家パネルの「限定的核利用のオプション」提言を思い出さざるを得ない。この結果、10月27日に行われた採決では、 ・・・続きを読む
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筆者

鈴木達治郎

鈴木達治郎(すずき・たつじろう) 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)センター長・教授

長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)センター長・教授。1951年生まれ。75年東京大学工学部原子力工学科卒。78年マサチューセッツ工科大学プログラム修士修了。工学博士(東京大学)。マサチューセッツ工科大エネルギー環境政策研究センター、同国際問題研究センター、電力中央研究所研究参事、東京大学公共政策大学院客員教授などを経て、2010年1月より2014年3月まで内閣府原子力委員会委員長代理を務め、2014年4月より現職。またパグウォッシュ会議評議員を2007~09年に続き、2014年4月より再び務めている。

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