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「コミットメント」で読み解く衆院選

イデオロギーよりも重要な「関与の度合い」と政治行動の関係性

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 先の衆院選は摩訶不思議(まかふしぎ)な選挙だった。安保法制を巡る強引な政局運営、稲田前防衛大臣ら閣僚の失言多数(本欄拙稿『失言の心理—なぜ政治家は、言ってしまうのか 』)、首相夫人の関与に始まるモリカケ(森友学園・掛井学園)問題等々。四方から追い込まれて絶体絶命と思われた政府与党だが、なんと大勝してしまった。

 勝因は何だったのか、いろいろ言われている。安倍さんの「国難突破」の訴えが効いたのか、野党の不用意を突いたタイミングの勝利か、それとも野党側の連携失敗による敵失か。

 ポピュリズムの選挙と言われ、イデオロギーとは違う次元で事が起きたらしい。だがそれですべてだろうか。もう少し深いところで納得したい。最初のキーワードは「コミットメント(関与)の浅さ」だ。しかしこれだけでは解けない。二つ目のキーワードとして思いついたのは(矛盾するようだが)コミットメントの「深さ」だ。このふたつで、今回の選挙と周辺事象に納得がいく。

コミットメントとは

 マーケティングで関与が浅い商品というと、たいてい少額で「まあどこのメーカーでも、こだわりはない」と消費者が考える品物を指す。多くの消費者にとって歯ブラシや歯磨き粉はその例といえる。これが化粧品だと女性にはこだわりがあって、何十年も同じメーカーの製品を使いつづけたりする。つまり心理的な関与が「深い」のであって、メーカーに対するロイヤリティ(忠誠心)にもつながる話だ。さらに購入するのが家となれば一生に1度か2度の話で、関与はどうしても深まる。

自民党の安倍晋三首相と公明党の山口那津男代表=2017年10月、東京都内
 これを政治に当てはめると、よく考えて支持政党(候補者)を決め、何があってもその党(その人)についていく。これが「関与の深い」政治態度で、米国の伝統的な共和党・民主党の対立の根には、こうした関与の深さがある。現トランプ政権ですら(これだけつまづきの連続なのに)33〜34%を維持している。史上最低といいつつ3人に1人が未だに支持している計算だ。

 逆に有権者側の関与が浅いと、ポピュリズムの格好の標的になる。関与の浅い票とはつまり「投票に行くかどうかもわからない」「(ちょっとしたスキャンダルや話題性で)どちらに転ぶかわからない」票のことだ。いわゆる浮動票とほぼ重なる。

正しい「失言」で失速

 希望の党立ち上げ後、小池百合子氏は改憲に反対する候補者を「排除する」と述べた。またその右腕と言われた若狭勝氏は「次の次(の選挙あたり)で政権を」と発言した。それらが失速の原因になったという。だがどちらも客観的に見てごくまっとうな、常識的な発言だった。

希望の党の小池百合子代表と民進党の前原誠司代表=2017年10月、東京都内
 現在の日本で「護憲—改憲」は最大の論争軸といえる。だからそこで相容れない候補者を排除することは、新党の旗印を鮮明にする上で当然だ。また「次の次」も現実的に考えればそんなところだろう。そういう「正しい」判断でも、発言されるや致命傷になって政局を百八十度変えてしまう。これこそがポピュリズム政治の怖さであり、筆者が強調している「情報実体化」の表れとも言える。

 ブームに乗って人気を得、ちょっとしたきっかけで勢いを失っていった政権・政治家は過去にもいた。日本新党でブームを起こした細川政権、左右野合の鳩山民主党政権、そして維新の会の橋下元大阪市長など。自分もその系列に属することを小池氏は熟知していて、それでもなお「排除」発言をして足を救われた。不用意とかおごりとか言われているがそれ以上に、上記「関与の深い層の動向と、その受け皿」という視点を欠いたのではないか。

護憲派の関与の深さ

 今回もうひとつ説明を要するのは、立憲民主党の勝利だろう。

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