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戦争することを忘れた人々が暮らすコスタリカ

軍隊を撤廃して平和国家になった中米の小国は、教育・医療・環境にきっちり投資する

関根健次 ユナイテッドピープル株式会社 代表取締役社長、一般社団法人 国際平和映像祭 代表理事

 中米の小国、コスタリカが燦然と光り輝いている。1948年に軍隊を撤廃し、軍事予算を教育費や医療費に割り当て、国民の幸福度を最大化する社会福祉国家を実現した。

 教育費は無料で、そのために実に国家予算の3割を費やしている。憲法でもGDPの8%を教育費に使うよう定めている。医療費も無料となっており、社会保障制度が充実している。国民の幸福度も高く、環境への負荷や暮らしの満足度などに基づく指標「地球幸福度指数」(HPI)で2016年の世界ランキング1位に輝いている。

 そんなコスタリカの魅力を伝えるために、約9カ月間暮らしたコスタリカから日本へ持ち帰った映画がある。ドキュメンタリー映画『コスタリカの奇跡〜積極的平和国家のつくり方〜』だ。1948年から1949年にかけて進められた軍隊廃止の流れを追いながら、コスタリカが教育、医療、環境にどのように投資して行ったのかを詳しく説明する作品で、6月の公開以来、各地で上映が続いて話題となっている。

 副題を「積極的平和国家のつくり方」としたのは、コスタリカが自国の平和実現にとどまらずに、海外にも平和を輸出する国となっているからだ。今年7月に122カ国が賛同して国連で採択された核兵器禁止条約の提案国はコスタリカで、議長はコスタリカ人であったし、医療や教育が無料なのはコスタリカ国民に限ったことではなく外国人も対象なのだ。

コスタリカは「積極的平和」国家か?

 「積極的平和」といえば思い浮かぶのが、「平和学の父」として世界的に高く評価されているヨハン・ガルトゥング博士だ。筆者は、日本が本来の平和主義に立ち返り、本当の積極的平和の道を進んでほしいと願い、2015年夏にガルトゥング博士を日本にお招きしている。今回も、新著『日本人のための平和論』(ダイヤモンド社)の出版記念イベントのために来日したガルトゥング博士に、映画『コスタリカの奇跡』の上映会後、お話をいただいた。

映画『コスタリカの奇跡』上映後に講演したヨハン・ガルトゥング博士=榊智朗さん撮影
 聞き手として私がガルトゥング博士に質問を投げかけながら進行した。まず質問したことは、映画についての感想だ。博士は本作について「よく出来た映画であるが、人物にフォーカスを当てすぎているとこが良くなかった」と述べ、映画としての出来には十分に満足されなかったようだ。またコスタリカが国内的には教育や医療費を無償化することなどで積極的平和を実現していることは評価できるが、対外的には消極的だと酷評されたことが意外であった。

 「コスタリカは軍隊を廃絶し、対外侵略をしない、消極的な平和政策を遂行しましたが、それが自動的に内政を平和にしたのではありません。映画で指摘されたように、例えば深刻な階級格差の問題がありました。それに対して、カトリック教会と共産党が協調して、市民側から政権に対して意識的に働きかけた結果、福祉制度が導入されました。消極的平和と積極的平和の両方が、国政の平和を進展させました」

 「つまりコスタリカは、自国内では消極的平和も積極的平和も成果をあげていますが、対外的には消極的平和に専念し、積極的平和に貢献をしてきませんでした。つまり、

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