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米国の科学の危機を救う三権分立

トランプ大統領による地磁気観測の予算削減案に米議会がストップをかけた

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 安倍首相が衆院選で繰り返した「謙虚」という公約をかなぐり捨てて、いきなり国会での野党の質問時間削減を提案した。以前も特定秘密保護法を推進して、国会が行政の動きを検証しにくくする制度を作っており、安倍政権になってから、国会の行政への隷属化が進んでいる。そればかりか、政府による自民党支配すら強まっている。にもかかわらず政権の支持率は安定し、最近の選挙結果が示す民意は「目先の経済さえ良ければ国民は独裁政権でも支持する」と言わんばかりだ。1960-70年代の発展途上国で行なわれた「開発独裁」を彷彿とさせる。

 国会が行政に隷属すれば、民主主義だけでなく科学にも大きな脅威となる。本稿では、たとい与党が多数を占める議会であっても、行政の行き過ぎに歯止めをかけることができるし、それが科学、ひいては国民を守るということを、トランプ政権の予算案をめぐる動きを例に示したい。

米国で地磁気観測の閉鎖案

 去る6月、トランプ政権は米国の2018年予算案を公表した。その案では、軍事予算の増大やメキシコ国境との壁建設費が提示された他、科学予算、とりわけ環境関係の予算が大幅に削減されていた。予算の増減自体は予想されていたことだが、環境関係の予算削減の範囲が予想以上だったため、話題になった。

米国のトランプ大統領と日本の安倍晋三首相=11月6日、岩下毅撮影

 このうち地球温暖化がらみの予算削減はあらかじめ警戒されていたこともあり、パリ協定離脱もからんで多くの識者がいろいろな場所に書いている。しかし、その影で、他の地球科学部門も大幅に予算削減されたことはあまり知られていない。

 中には予想外の規模で削減案が出された部門もある。米国地質調査所(USGS)地磁気観測部の部門そのものの閉鎖と、自然災害関連予算の大幅削減が盛り込まれ、議会に送られたのである。特に前者は、世界中の関連科学者(地球進化・地磁気・宇宙天気予報・磁気圏電離圏物理)を驚かせた。というのも、地磁気の観測は、太陽活動が地球電磁気圏の擾乱や地磁気嵐を引き起こす「宇宙天気」の予報にとって必須で、そのデータを取らなくなるということはトランプ大統領の喧伝する「国防強化」にも反するからだ。

 歴史のある米国の観測が数年でも途切れてしまったら、宇宙天気の予報精度が落ちるのは明らかで、その結果、運用中の人工衛星(トランプ大統領にとっては軍事衛星が重要だろうが)の機能がダメージを受ける可能性も高まる。また、磁気嵐に伴う大規模オーロラが原因となって、大都市の停電だって起こりやすくなろう。

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