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サンフランシスコで人体臓器に触ってきた

米国サイエンスフェスティバルのブース展示に考えさせられたこと

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

米国ベイエリアの科学イベント

 「青少年のための科学の祭典」は、実験や工作を楽しむブースやステージでの講演や実演がにぎやかに繰り広げられる催しだ。夏に東京・北の丸公園にある科学技術館で開かれる全国大会が今年第26回を迎え、このほか地方大会も各地で開かれている。10月26日から29日までサンフランシスコ市内で開かれた科学ジャーナリスト世界会議に参加した私は、たまたまカリフォルニア州立大学(UC)サンフランシスコ校で、「科学の祭典」と似たような催しと思われるサイエンスフェスティバルのブース展示に遭遇した。そこで衝撃的な体験をしたので報告したい。

がん細胞やT細胞の模型について説明する高校生たち。

 米国では2009年に全米科学財団(NSF)から資金を得てサイエンスフェスティバル連盟が発足した。中心的な役割を果たしている機関の一つがUCサンフランシスコ校で、サンフランシスコ湾を囲む「ベイエリア」で開かれる「ベイ・エリア・サイエンス・フェスティバル(BASF)」は今年7回目を迎えた。

 「科学の祭典」は週末の2日間といった短期間が普通で、会場も科学館の中などが一般的だ。しかし、7回目のBASFは10月26日から11月11日までの長期にわたり、街中のあちこちで関連行事が開かれた。この関連行事にはコンサートや芝居まで含まれるので、本当は「科学の祭典」と「サイエンスフェスティバル」は「似て非なるもの」と言うべきなのかもしれない。

奥ががん細胞で、手前が正常細胞。左側に抗体をつけたT細胞が見える。

 全米各地を回って開かれるアメリカ科学振興協会(AAAS)年会でも、青少年のためのブース展示は必ずある。こちらは「科学の祭典」と同じような「わっさわっさ」感があるが、UCサンフランシスコ校でのブース展示は静かなたたずまいだった。その中で子どもたちが熱心に手を動かしているブースをのぞき込むと、がん細胞と正常細胞の模型があり、さらに免疫をつかさどるT細胞の模型があった。そこにシグナル分子と抗体をはめ込むようになっている。いくつもある分子と抗体から好きなのを選んではめ込んだT細胞をがん細胞にくっつける。がん細胞がピカピカ光ると、T細胞にやられた、という印である。正常細胞の方はやられないような抗体を選ぶのが大事、なのである。

 おもちゃとしても面白いものになっているのだが、がんの免疫療法という、医学の最先端の説明になっているところがすごい。そもそも「T細胞の模型」(というか、おもちゃ)が子どもたちのためにつくられているってすごくないですか。

 UCサンフランシスコ校は、健康に特化した大学である。歯学部、医学部、看護学部、薬学部(この順序はアルファベット順で、この順で学部紹介をするところにも日本との違いを感じる)の4つしかなく、大きな付属病院を持つ。この大学の教授たちが1987年に作ったのが「科学と健康の教育パートナーシップ(SEP)」という組織だ。幼稚園児から高校生まで、質の高い科学教育を届けるために科学者と教育者の協力を促進するのが目的で、公立学校にUCSFの研究者を派遣するなどの活動を積み重ねてきた。

人体の臓器も展示

 このSEPが出していたもう一つのブースの衝撃度がハンパなかった。なんと人体の臓器の本物が展示され、手袋をはめれば誰でも自由に触れるようになっていたのである。

人体臓器の展示ブース

 アルミホイル製のトレイに

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