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中国・米国・英国で進行する受精卵のゲノム編集

予感される「デザイナーベビー・ツーリズム」の到来

粥川準二 サイエンスライター

 受精卵に対するゲノム編集をどう規制するかを議論している内閣府「生命倫理専門調査会」の作業部会が11月21日、研究を指針で規制するという「素案」をまとめた。毎日新聞が報じた。

 現時点で「素案」はウェブサイトに公開されていないが、内閣府の事務局に確認したところ、法律による規制も提案されたが見送られたこと、指針の対象として「ゲノム編集」や「ミトコンドリア置換」など5種類が挙げられていること、遺伝子を改変された胚を子宮に移植することは認められていないこと、体外受精で「余った」胚に限って使うことを認めている一方、研究のために新たに胚をつくることは今後の検討課題とすること、などが決まったという。

 同調査会は昨年4月、受精卵ゲノム編集研究について、子宮に移植する「臨床応用」を禁止する一方、子宮に移植しない「基礎研究」は容認される場合があるとする「中間まとめ」を出していた。

 いずれにせよ、年内には日本における規制の方向性が明らかになると思われる。ここでは受精卵ゲノム編集の研究の動向と、日本学術会議が9月27日にまとめた「提言」を紹介して、この問題を考え直してみたい。

中国から続々と研究論文

 ゲノム編集とは、まるでワープロソフトで文章を編集するように、遺伝情報が書かれているDNAを切り貼りする技術のこと。体細胞に改変を施してもその結果は子孫には伝わらないが、受精卵や胚などに行えば伝わる。受精卵ゲノム編集が体細胞ゲノム編集よりも懸念されているのはそのためである。

 これまでに人間の受精卵にゲノム編集を行ったという研究論文は8件報告されている(表参照)。うち6件は中国の研究者らによるもの。そのうち4件が『プロテイン&セル』という同じジャーナル(学術雑誌)に掲載されている。残り2件は、米国と英国が1件ずつで、どちらも科学誌『ネイチャー』で報告された。

拡大これまで報告されたヒト生殖細胞系のゲノム編集実験

 技術的に興味深いのは、中国の研究者による3件で、DNAを塩基1個(1文字)のレベルで書き換える「塩基編集」が行われたことである。遺伝情報を微細に書き換えて子孫に伝えることが人間でも可能だと示されたのだ。

 また、表中にある3PN卵とは、体外受精で2つの精子が受精してしまったため廃棄することが決まった受精卵であり、4件とも中国の研究だ。

 その一方、中国と米国の1件ずつは、この研究のために体外受精でつくられた正常な受精卵が使われている。さらに別の1件(中国)では、この研究のために遺伝病患者の体細胞と提供者の卵子から「クローン胚」をつくって使用している。この第8例目を報告した研究者らは、第1例目を報告したグループと同一である。

 これら3件では、研究に使うために、最終的には滅失・廃棄することを前提として、1人の人間にもなりうるものをわざわざつくる、ということが行われている。また、子どもをつくるわけでもないのに、女性に大きな負担のかかる卵子採取が行われたことになる。

 なお米国のオレゴン大学の研究者らが報告した研究(第4例目)は、9月に「『ヒト受精卵にゲノム編集』で何が起きたのか」で紹介したように、その解釈についてほかの研究者から異論が寄せられている。

英国の研究は、国の認可つき

 英国のフランシス・クリック研究所の研究チームが9月22日に『ネイチャー』で発表した研究(第7例目)はたいへん興味深い。英国では ・・・続きを読む
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筆者

粥川準二

粥川準二(かゆかわ・じゅんじ) サイエンスライター

1969年生まれ、愛知県出身。国士舘大学、明治学院大学、日本大学非常勤講師。「ジャーナリスト」や「社会学者」と呼ばれることも。著書『バイオ化する社会』(青土社)など。共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、山口剛ほか訳、早川書房)など。監修書『曝された生 チェルノブイリ後の生物学的市民』(アドリアナ・ペトリーナ著、森本麻衣子ほか訳、人文書院)。

 

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