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環境で、分断国家アメリカを修復できないか

トランプ氏の顔が立つ温暖化対策の実現に知恵の出し時

小林光 慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)

 2017年8月下旬から、米国の大学で教壇に立っている。フルブライト財団から米国大学で「地球環境政策を現地で教える」という教員の募集があり、応募した結果、ノース・セントラル・カレッジ(イリノイ州ネィパービル)で授業を1年間受け持つことになった。

レガシー潰し

 大学で環境を教える同僚の先生方に聞くと、人為による地球温暖化について懐疑的な学生は昔はいたが、今はいない由である。2017年だけでも史上最強級の二つのハリケーンがアメリカを襲い、カリフォルニアでは異常に長いフェーン現象の熱風で住宅街へも延焼する大規模な山火事に見舞われるなど、エビデンスがあるので、温暖化が実感されているのだと思われる。

 環境異変への国民の関心が高い中でも、トランプ大統領によるオバマ・レガシー潰しは進んでいる。

 前オバマ政権は、その初期に議会に対し、堂々の温暖化対策法案を諮ったが、あえなく撃墜されてしまった。オバマ政権は、そのトラウマから議会との調整を諦め、もっぱら行政権限で施策を構築した。それを逆手に取られ、行政的に施策を撤回することが容易になっているように思われる。実際、あれほど大きな官庁の米環境保護局(EPA)が、それ自体の設置法を持たず、それでもなぜ強い権限を行使できていたのかは、筆者にも不思議である。法的な基礎がなくて膨らんだ部分は攻撃しやすいのではないだろうか。

 オバマ・レガシー潰しは、かなり徹底的である。

ピッツバーグ南方でまだ操業している大規模な旧式コークス炉。公害が問題になっている拡大ピッツバーグ南方でまだ操業している大規模な旧式コークス炉。公害が問題になっている
既存の石炭火力発電所への規制案を示したときに併せて公表したインパクト・アナリシス・リポートは、現在のEPAのサイトからなくなっている。子供向けの気候変動を解説する資料も更新されておらず、近々なくなる旨のアナウンスが出ている。政権権交代があったにせよ、政府が公費を使って作成、公表した文書を消去してしまうなど、正気とは思えない。

 アメリカ人の日常の信条としても「連邦政府は課税ばかりして大きくなり、人々の働きを搾取する」という反感は大きい。州の自治など分権的な統治を好むので、EPAいじめが直ちに、国民の反発を呼ぶわけではない模様ではある。

 けれども、そこをさらに逆手にとって、州や市が独自に、パリ協定で登録した米国目標の実現を目指す動きが元気いっぱいに展開されている。

WASIのパビリオンで演説するゴア元米副大統領=2017年11月、ボン拡大WASIのパビリオンで演説するゴア元米副大統領=2017年11月、ボン
「We are still in」(WASI、私たちはいまも参加している)という合計1億3千万人が住まう全米2500以上の州や市、企業の連携組織である。2017年11月のボンでの国連気候変動枠組み条約第23回締約国会議(COP23)では、連邦政府とは別にパビリオンを構え、プレゼンテーションをして、意気軒高な姿を見せたと聞く。また、12月頭には、シカゴで、エマニュエル市長が主催し、北米都市気候サミットが開かれた。

石炭規制を巡る混乱

 オバマ政権が力を入れてきた石炭火力規制は、1年に及ぶ意見聴取などの準備を経て、2015年8月に公布された。相当数の旧式石炭火力を廃止に追い込むものだった。

 その内容は、(1)個々の石炭火力発電所の熱電変換効率を4%向上(2)ガス火力や再生可能エネルギーによる発電の強化(3)年率1%の節電強化、を前提に、各州にMWh(メガワット時)当たりのCO2排出量の長期目標(2025年または2030年)を立てた上で、実行することを各州の権限事務とするものである。総体として、米国の発電部門からのCO2排出を25%~30%削減し、同国のパリ協定上の目標(NDC)の達成に大きく貢献するもくろみだった。

 しかし、共和党系の一部の州知事や産業界の緊急の訴えを認め、最高裁は2016年2月に発効を差し止めた。一方、「清浄大気法を根拠に石炭火力規制を進めることはEPAの授権の範囲を超えて違法だ」という訴訟も、進展がない状況にある。プルイットEPA長官は2017年10月11日、既存石炭火力規制の撤回と、新たな石炭火力規制案の制定方針を宣言した。

 米国は気候変動枠組み条約の加盟国にとどまっている。CO2を大気汚染物質と認めるかねての最高裁判決も有効だ。これまでの訴訟での原告側主張は「連邦政府ができるのは合理的な排出規制にとどまり、電源構成をどうするかなど個別火力発電所の裁量を超えた規制は違法であり州権限を侵す」という穏当なものだ。トランプ政権下のEPAも、何らかの石炭火力規制(例えば熱電効率)を定めるのは必至だ。民主党系の州では、州法によって、電源構成を含むCO2規制を開始することになるだろう。環境派からは、トランプ政権による規制撤回や新規制制定に対して違法確認の訴訟も起きよう。

 このような混乱は、トランプ政権の統治能力への疑問を高める可能性が高い。2017年には、大きなハリケーンが二つも米国を襲い、カリフォルニアでは、強いフェーン現象で未曽有の山火事が発生するなど、天変地異が続いている。ラスベガスの銃乱射事件などもあって、世論はトランプ政権に厳しい目を向けている。

実際のピッツバーグは

 トランプ大統領は「自分はパリ市民ではない。ピッツバーグ市民を代表し、パリ協定を離脱する」と述べた。ピッツバーグ市長は、直ちにパリ協定を支持することを言明した。これが気になっていたので、実際に訪れてみた。 ・・・続きを読む
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筆者

小林光

小林光(こばやし・ひかる) 慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)

慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)。工学博士。1949年生まれ、慶応義塾大学経済学部卒業。環境庁(省)では、環境と経済、地球温暖化などの課題を幅広く担当。1997年の京都会議(COP3)の日本誘致のほか、温暖化の国際交渉、環境税の創設などを進めた。環境事務次官(2009~11年)時代には水俣病患者団体との和解に力を注ぐ。自然エネルギーをふんだんに利用したエコハウスを自宅にしていることで有名。趣味は蝶の観察。

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